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私見公論
2011年12月17日(土)22:30

時を読む知性・見識を問われる指導者/岡村 一男

「私見公論」⑪


 情報手段が高度・多様化し、活字離れが一段と進む中にあっても、わが国の新聞メディアの発行部数は世界のトップレベルにある。日刊紙の総発行部数は世界第3位にあり、個別にみても全国紙の読売、朝日、毎日はそれぞれ世界第1位から第3位にある。ローカル紙の充実や識字率の高さ、基礎教育の徹底等も相まって、わが国は情報大国であり、いつでも、どこでも必要な情報を入手し、世界の動きを知るのに何ら不足を感じない。


 ちなみにアメリカの新聞メディアの衰退ぶりは止まらず、最も発行部数の多いUSA・TODAYでさえ世界的にみれば第11位、ウォール・ストリート・ジャーナルが13位にランクされる低さである。わが国のような徹底した新聞の戸別宅配がなく、一般の市民は身近なコミュニティーのことには関心を寄せても、全国レベルや国際社会の動きにはさほど関心をもたないようである。広大な国土、多様な人種と宗教、州の独立性、強力な利益集団等の存在を考えれば容易に頷ける

 さて、先日、地域のある集会に参加し、雑談した折の話題はスポーツのこと、TVの政治討論会のこと、国政や国外事情等であった。小さな島の市民レベルにおける情報の質の高さと、量の豊かさと幅の広さに驚かされた。年配の人ほど豊富な情報と意見をもち合わせていることも大きな発見であった。世代をこえて「時の流れ」に遅れまいとする貪欲な生き方には文化大国の風格を見る思いがした。経済力ではなく、文化力や人間力(人のやさしさ、思いやり、人と人との絆、幸せを求める意欲等を総合した力)で勝負する時代がすでに到来している。

 そうした情報過多の市民生活をよそに「この国はどこに向かっているのだろうか」と多くの人が疑問と不安を抱いている。行く先が見えないことへの不安であり、だれもこの問いにこたえきれないことへの焦りであり、強力な指導者不在への空しさである。

 政治が信頼を失い、不況は深刻さを増し、教育の理念さえ揺らぐとき人々は当然のこととして自衛手段をとる。世間には傍観者が増え、自分さえ安泰であれば他に関心を寄せない生き方が主流となる。今年の世相を反映する漢字に「絆」が選ばれた裏には日本人の反省と発見と希望が含まれているにちがいない。

 民主主義社会は政治を信頼することによって成り立つ社会であり、政治の安定こそすべての発展のカギであることは言うまでもない。政治はサイエンス(学問)であると同時に市民にとっては日々の暮らしそのものであり、その不安定さは人々から生活と夢を奪い去る。

 政治の不安定さの要因の最たるものは政治家への不信であろう。真の政治家(ステーツマン)と政治屋(ポリティシャン)の違いについて真剣に考える賢明さが強く求められている。政治家は国や民族の将来を思い、私欲を捨てて献身し、政治屋は次の選挙を思い奔走する。政治家を育てるか、政治屋をのさばらすかは一に主権者たる国民の意識と高い見識に待つしかない。

 あらゆる組織において、広くは国際社会から国家レベルや身近な地域や各種の組織に至るまでよきリーダーをもつことはしあわせなことである。アメリカ第37代大統領、リチャード・ニクソンはその著「指導者とは(Leaders)」の中で次のような指導者像を描き、興味深い。「芝居が終わって幕が下りると、観客は劇場を出て、家に帰り、日常生活に戻る。しかし、指導者の生涯に幕が下りるときには、それを見終わった観客の人生そのものに開幕時とは異なるものがあり、歴史のコースさえ一変している場合が多い」と。人々の生き方に何らかのインパクト(衝撃)を与えることのできる人が指導者だと。

 人はだれでも生涯においてよき指導者を求める。組織も同じである。人生の指針を得るために。進む方向を誤らないために。それにしてもわが国の現状をみるにつけ、なぜ強力な指導者が育たないだろうかという素朴な疑問をもつ。これまでに歴史に残る多くの世界の指導者たちは人々に生きる指針を残しただけでなく、地平線より先を見通すことのできる人たちであった。国際舞台において日本の首相の存在感が薄く、外交でイニシアチブをとることなく、出来上がったシナリオを演出するだけの姿に映るのは寂しい限りである。

 残念ながらわが国の政治システムでは強いリーダーが育ちにくいという不幸な現実を認めざるを得ない。国民をリードし、国の進む方向を示し得る有能な指導者は質の高い国民によって育てられるとすれば国民もまた同じレベルである。

 ところで世界はいま大きな転換期を迎えた。大国による覇権主義が終焉し、多国間による協調と共存を模索する方向にシフトした。それぞれの国は自国の国益を優先に、市場と雇用の拡大、資源の確保、領土の保全、そして自国の安全保障を内包しつつ外交という舞台で烈しい戦いを展開している。

 こうした世界の波はこの小さな島にも容赦なく押し寄せている。島に住む者は変化に耐え得る体力を求められる。そのためには深い洞察力、行動力、そして先を読む力を必要とする。その英知とパワーがあれば島から地球の動きが読める。そして行く先が見える。小さな島でも世界のコア(核)になり得る。

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