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2012年1月6日(金) 22:03

TPP(環太平洋経済連携協定)について(下)/砂川 光弘

私見公論13


 1960年代から始まった貿易の自由化問題、近年で言えば91年の牛肉・オレンジの輸入自由化、93年のガットウルグアイラウンド(コメ市場の部分開放)等があるが、日本は主体的に交渉するのではなく、外圧に押される形で自由化を進めてきた感がする。


 今回のTPP交渉参加も具体的な施策の提示はなく見切り発車である。内閣府、経産省、農水省がTPP参加による試算した結果は次のとおりである。


 政府内で見解が割れるのはなぜであろうか。とりわけ農水省は主要農産品19品目(林野・水産を含まない)について全世界を対象に直ちに関税撤廃を行い、何らの対策も講じない場合の試算で農業は壊滅的な打撃を受け、さらに品目別の減少率を見るとサトウキビ100%、牛肉で75%となっている。


 本県農業は、昭和30年代に入り、パインブームにより山林原野等が開発され、キューバ危機を背景としたサトウキビ価格の高騰によりサトウキビ面積が拡大され農家経済は潤い、かつてない程に農村は活性化した。しかしながら、昭和年の「砂糖の輸入自由化」は、昭和38年代に入ってサトウキビ価格を暴落させ本県農業に壊滅的な打撃を与えた。


 サトウキビから野菜や畜産等に経営を転換し農業を継続する農家もあったが、大半の農家は建築・土木作業等、他産業へ流出した。さらに昭和47年の本土復帰による土木建築業や海洋博関連工事等の公共事業ラッシュは基幹的農業者までも吸収し、サトウキビ収穫を放棄させた。


 本県農業は、その変遷過程で沈砂池的機能を有する水田や芋類、豆類等を欠落させ先人たちが築いてきた合理的な輪作体系までも崩壊させて「サトウキビ単一経営」へと突き進んできた。それに加えて復帰後の大型基盤整備等は赤土流出による海浜を中心に自然環境の破壊へつながり、昭和50年代には大きな社会問題へと進展した。このような貿易の自由化(砂糖輸入の自由化)による農業や環境への影響を農家は体験しているからTPP交渉参加には神経をとがらせるのである。


 政府は昨年10月、農業の再生に向けた方向性を決めた。今後5年間で農地を集積して農家1戸・法人の耕地面積を10倍に拡大し、生産コストの低減による海外農産物との競争力を高めることが狙いである。農業問題は、政府の経済方針の中で生起してくる問題であり、言葉を換えれば半世紀にわたって展開してきた日本の経済政策は農業が抱える問題解決には十分ではなかったといえる。その過去の政策に輪をかけた政策では日本の農業は生き残れず、農業の荒廃は日本の美しい自然景観の破壊へと進展するのは前述した本県の事例を見ても明白である。


 日本だけが農業保護政策をとっているのではなく、米国を含め、強力な農業生産基盤を持つ国であっても農業保護政策をとっているのである。農業保護の水準は米国が日本と同程度、EUは3倍の高い水準で自国の農業を守っているのである。農業経営規模を比較すると日本を1とした場合、米国は100倍、豪州1900倍であり、経済的な合理性のみで議論するのには限界がある。


 今こそTPP参加の是非論より、農林業が持つ多面的機能や日本の美しい自然景観を保持して次世代へ引き継ぐための日本農業の在り方ビジョンづくりへと議論が展開されるべきである。その結果、食糧自給率が向上し、若い人が農業・農村に魅力を感じ、取り組める条件整備をはかる必要がある。(すなかわ みつひろ)