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行雲流水
2012年4月13日(金)23:04

「宮古上布」(行雲流水)

 ある席で隣り合わせた年配の女性の身につけている物が気になった。明らかに宮古上布だ。上布には独特の艶があって、図柄に奥行きがある


▼「上布のお仕事をなさっているのですか」と、思わず声を掛けた。「いいえ、これは古布ですよ。古い着物をほぐして作り変えたものです」の返事に納得した。「分かるのですか、知らない人も多いですよ」会話が弾んだ。「いいものはいいですよ」

▼宮古上布は、伝統工芸品として国の指定を受けていることは今さら説明するまでもないが、平成10年前後の宮古上布の置かれた状況は惨たんたるものであった

▼そのことは宮古上布に直接関わった人たちにとって忘れがたいものであろう。解散してもおかしくない宮古織物事業協同組合であったが、組合を必死に守った女性たちがいたことを忘れてはならない

▼国指定織物工芸としての宮古上布の技術を絶やさないためには人を育てなければならないし、人を育てるにはそれにふさわしい人が求められるのは当然だが、苧麻(ちょま)から繊維を取り出して糸にし、布として仕上げるまでの複雑で手の込んだ一連の作業は分業化され、一つ一つの工程作業にはかなりの技術と根気が求められる。当時、糸を紡ぐ技術指導をなさったのが80歳を超えた女性であったことも記憶されるべきであろう

▼上布の良さは繊維の細さと図柄の繊細さにある。繊維の細さは布にされて砧によって手が加えられたとき独特の輝きを持つ。出来上がった上布は多くの人の手を経て作り上げられた芸術品と言えるのではないか。

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