2012年6月9日(土) 9:00

「国益」(行雲流水)

 「熟慮断行」という言葉がある。考え尽くした末条件が整っていないとか反対する者がいても実行する場合に使われる



▼1960年の安保条約改定で国内が揺れた。その条約締結の決断を迫られたのが岸信介であった。彼は弟の佐藤栄作と二人で議員控え室からデモ隊を眺めながら死を覚悟して改定安保条約の締結を決心したといわれる


▼彼が死を覚悟してまで米国との安保条約にこだわったのは「国益」の一言であった。改定安保条約を成立させたあと岸内閣は総辞職した。総理を辞めるとき、彼は「安保改定がきちんと評価されるには50年かかる」と言った


▼ウォール・ストリート・ジャーナル5月30日、日本版(デジタル)は、東京都知事、石原慎太郎が『尖閣に関しては、わたしはアメリカはあまり頼りにならないと思う』と述べたことを受け「最も親しい同盟国である米国について遠慮のない不信感をあらわにした」と非難記事を載せた。知事の尖閣に関する発言は「国益」を考えてのことである


▼野田佳彦総理大臣は、国益を考えているのかいないのかよく分からない。ハワイでのTPP交渉参加表明は国民を困惑させ、命をかけてもやり遂げると言ったはずの「税と社会保障の一体改革」の話も混迷を深めるばかりだ。日中韓3国首脳会談では中国にコケにされたにもかかわらず、6月1日から円と元を直接取引すると言い出したのが5月の末だった


▼岸も石原も政治家としての矜持を持って外国と向きあっている。しかし、野田には熟慮の跡が見えず、矜持もない。