2012年10月5日(金) 23:39

織物の力/仲間 伸恵

私見公論50


 宮古上布に関わる仕事をしたいと思い、宮古に帰ることを決めたのが、京都で17年を過ごし、もうすぐ40歳になる頃のことでした。そして現在、幸運なことに多くの方に助けていただきながら、希望したとおりに宮古上布、宮古の織物に関わらせてもらっています。


 私が、初めて織物の面白さに出合ったのは、大学で受講した染織の授業でのことでした。高校を卒業して島を出るまで宮古で過ごした18年間には、上布をはじめ織物との接点はほぼ無く、思い返すと記憶の底に、近所の石垣に藍染めの糸が干してある情景がかすかに残っている程度です。そのため、織物とのはっきりした出合いは宮古上布からではなく、木綿や絹の琉球絣や、ウールを使ったマットやタピストリーなど、型染めも含めて実にさまざまな染め織物との触れあいから始まることになりました。


 大学の染織の授業はとても面白くて、手織りの魅力を大いに感じることができましたが、もうひとつ、織物に対して決定的に強い印象を与えてくれたのが、1986年に兵庫県の西宮市大谷記念美術館で開催された「アンデスの染織と工芸展」でした。このとき見た、ペルーを中心とした古代アンデスの、紀元前1000年頃からの染織品の持つ、多様な技術と表現の圧倒的な力は今も忘れることはありません。はるかな時間と空間を超えて来たものたちの、繊維や色などの素材自体が持つ強烈な存在感と、それを創りだした人と使っていた人の気配や生活感までもが漂ってくるような「人の手が創りだしたものの繊細な力強さ」にとても驚かされました。このときの感動が、私に織物の持つ力に強く惹かれるきっかけをくれたように思います。


 この感動体験の後、織物を見るのがさらに大好きになり、好んで見に出掛けるようになりました。


 世界中に、素晴らしい織物はとてもたくさんあるのですが、そのなかで心惹かれるもののひとつに、インドネシア・バリ島のグリンシンという経緯絣があります。世界有数の伝統染織の国であるインドネシアには、多くの島々に多様な染織があり、バリ島の先住民の村テンガナンで織られている経緯絣グリンシンもそのひとつです。私が初めてその村を訪ねたのはもう年も前のことですが、織る工程自体が神聖な儀式のように織られていたその布には神が宿るとされ、儀礼用衣装や呪術や病気治療などに用いられるのだと聞きました。少々怖い気もしたのですが、一大決心をして手に入れた小さめのグリンシンが1枚、現在私の手元にあり「きっとあなたの家の魔除けになってくれますよ」という言葉を信じて大切に持っています。


 布がお守りになるという話は、それを贈ることで旅の安全を願ったとされるティサージ(手巾)など、沖縄でもよく聞かれる話です。宮古で織られてきたたくさんの布たちもきっと、島の人々の暮らしをいろんな意味で護ってきたのではないでしょうか。


 世界の素敵な織物たちにも負けない素晴らしい織物の産地であるふるさとに戻り、宮古の誇る苧麻糸について知れば知るほど、それをきちんと織り上げることの難しさを経験すればするほど、はるか長い時間をかけてこの布を育んできた先人たちは本当にすごいと思います。わが故郷に、こんなに素晴らしい織物があることを心からうれしく思い、この島に生まれた幸運に感謝します。


 現在、昔の宮古の織物について、興味津々勉強中なのですが、分からないことだらけで、だからこそ心おどる未知の世界が広がっているような気がします。そして、未来の宮古の織物は、どうなっていくのでしょう。この先もこの島から、新しく美しい力を持った布たちがたくさん生まれて来ることに期待を込めて、楽しみにしたいと思います。