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ペン遊・ペン楽
2013年1月9日(水)22:35

ウプス(海水)の香り/親泊 宗秀

2013.1.10  ペン遊ペン楽

 

 朝の散歩のときに偶然見つけた手作りの豆腐屋がある。看板もなく、すすけた明かり取りから白く立ち上る煙がそこの証しだ。昔ながらのウプス(海水)を使う製法で、シンミィ鍋に大豆の搾りかすを注ぎ沸々と薪で煮詰めるやり方だ。


 そこは7時頃を目安に行かないと購入が難しい。結構人気があり、昔ながらの味を楽しむ人たちの間では、どうも有名らしい。電話で注文をすれば済むことだが、そんな野暮なことはしたくない。早起きができれば熱々のゆし豆腐と、あまゆう(豆乳)を運良く買い求めることができるのだ。

 あるとき、湯葉をサービスしてもらった。豆乳をとろ火で煮詰めたときにできるのが湯葉だ。湯葉作りを目的としていないので、稀少な副産物と言える。ほんの数㌘の塊だが、おばさんの信頼を得たようで誇らしく思えた。この頃ウプスで作る豆腐屋がめっきり少なくなった。

 豆腐屋に限らず手作りの商いも同様で、餅、アフ、ポーポー、そば、ブリキ屋、鍛冶屋など。地産地消ということが聞こえるようになって久しい。安くておいしい地元の特産物が味わえるようなそんな取り組みが商店街を中心にできたら、地元の人のみならず、観光の目玉になり得るのではないだろうか。旅の楽しみといえば、何と言ってもご当地の名産を食するのが醍醐味だろう。

 それから、島のイメージを語るとするならば、やはり「人」だろう。この島には風土に根ざし重ねてきた素晴らしい気質がある。「アララガマ魂」に代表される負けん気。それが何もない所から新しい物を創り出す原動力になってきたに違いない。風景も良い。出会う人たちも良い、旨い物もたべることができて、のんびり穏やかな気分になれる。日常をリセットする。そんな空間を演出することができれば、これはセールスポイントとなる。

 ただ一つ、何かを守るということに関しては少々欠けているように思う。島には森林面積が足りない。これは事実だ。森が海を造ると言われるほど、森は海を守る上で重要な役割を担う。壊すのではなく守り育てながら、成長する島を目指すことがこれからは求められるべきだろう。

 限られた空間に暮らしている私たちが、本当に心も体も健康で健やかに生活するためには、一人ひとりの思いを伝える少しの勇気と、貴重な自然と共にあることをおしなべて理解することが肝要ではないだろうか。繁栄の基軸を見誤ると、衰退は加速的に進み、未来に汚点を残すことになりかねない。大切なことは、どうなりたいかではなく、どのようにあるべきか?を熟慮する必要がある。なぜなら、ゆし豆腐の風味を出すのは、ウプスに限るからだ…。

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