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人生雑感
2013年6月26日(水)9:00

話し上手より、聞き上手が、自分と他人を幸せにする力を発揮する

日本親業協会親業インストラクター 福里 盛雄

1 聞き上手は、相手に心の安らぎを与える

 ある精神科専門医の患者治療の体験話によると、長い期間治療を続けていても、なかなか回復の糸口が見つからない患者が、いつもの通り受診に来ました。その日は、自分の家庭に重大な困難な問題が起きていて、そのことに朝から身も心も支配され、患者の診察に気持ちを集中することができなかったので、ただ相手の言うことを黙って聞くだけでした。ようやく診療を終えて、その患者が「先生、今日は本当にありがとうございました。おかげさまで気分がとてもよくなりました。きっと、回復していくように自信が湧いてきました」と明るい笑顔で帰って行ったというのです。


 一般的に医師は、患者の話を聞こうとしないのです。確かに患者は医学に対しては素人です。素人の患者は、専門家である医師の言うことに、素直に従うことが病気を治すための必要条件だと思います。しかし、「名医は、患者が育てる」ということも、また、真理です。名医と言われている医師は、患者さんの言葉を聞いて、それによって治療のきっかけを見つけ出す能力を持ち合わせているように見えます。私たちも、相手の話を十分に聞き、相手の本当の気持ちを明確に汲み取る力を養う必要があるのではないでしょうか。

2 相手の話を明確に理解し、返答するための力をつけるための秘訣

 私たちは、相手の好意を尊重して、本当のことを言わずに、別の表現をする場合がたびたびあります。例えば、自分は忙しく早く帰ってほしいと思っているのに、相手のお客さんがなかなか帰る様子がないので、「今、何時ですか」と言ったりします。それを聞いた相手は、今の時間を知りたいと思っているものと誤解して、「今は夜の10時です」と答えたりすると、「今、何時ですか」という言葉の裏側に隠されている、早く帰ってほしいという本当の気持ちが聞かれなかったこととなるのです。

 「今、何時ですか」と言ったのは、時間を聞いているのではなく、早く帰ってもらいたいということです。このように、私たちの日常の会話には、本当に言いたいことを直接に言わないで別の言葉で間接的に表現する場合も多々あるのです。それは、お互いの良い人間関係を築いていくために必要なときもあるでしょう。

 人の言葉は、一般的には、事実を描写する機能と話しての感情、思いを表現する機能の二つからなると言われています。例えば、子どもが学校から帰ってきて、お母さんに寂しそうな顔で、「花子ちゃんが転校するの」ということばは、一つは大好きな花子ちゃんが転校していくという事実と、もう一つは花子ちゃんが転校してからの学校生活をどのように過ごせばよいのかと寂しさと不安を表現しているのです。子どもの「花子ちゃんは転校するの」という言葉の事実だけを聞き取って、「あ、そうですか、花子ちゃんは転校するんですか」と言ったとすると、この母親は、自分の子が本当に聞いてもらいたいという、花子ちゃんが転校していくことによる寂しい感情は共感していないのです。この母親は、子どもの話を本当に聞いていないと言えます。私たちは良い人間関係を築くためには、事実だけの理解に止まらず、この言葉によって何を訴えようとしているのか、よく聞いて、考えて、裏側に隠されている真意をはっきりとくみ取り、それに応答すべきであると考えます。「聞くには早く、語るにはおそく、怒るにはおそいようにしなさい」ということを習慣化したいものです。本当の幸せな生活は、聞き上手がつくり出します。

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