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ペン遊・ペン楽
2013年7月11日(木)9:00

写真家/さどやませいこ

2013.7.11  ペン遊ペン楽


 人はそれぞれ自分の表現方法をもつ。音楽であり、書であり、絵であり、文芸であり・・・。その道を極めるための努力に人生を賭ける人たちがいる。誰に指図された訳でもなく、ひたすらその道を堀り進めることに全てを投じながら何の不遜もない。その人の生き方といえばそれまでだが、私のような凡人には到底理解の及ぶところではない。


 最近、テレビやネットの情報で、写真家にもいろいろスタンスの違いで表現方法が違うことがわかってきた。今年の正月3日、何気なく見ていたNHKのテレビ番組で二人の写真家を紹介していた。一人は、山岳写真家と称される白川義員(よしかず)さん(77)。前人未到といわれる世界の名山を撮り続ける。44年前、「地球再発見の旅」は新聞社からの依頼でスタートした。実に38カ月、35カ国を旅する。

 世界一周で、地球には想像を絶する風景があることを知った白川さんは、以後40余年にわたり地球を壮大なスケールで写し取ることに没頭した。それ以来、悠久無限の宇宙にあって、芥粒(ごみつぶ)の如き一点の存在、人類はこの一点の命である宇宙船地球号に乗り合わせていることを心底認識した。民族紛争や国境戦争など馬鹿らしい、そこまで思いが至るほどの写真を撮りたいというのが「地球再発見」のテーマだという。近年は日本の壮大な自然に取り組み「何でもできると豪語する今の科学者たちやITを駆使する現代人たちに、木の葉一枚作れず何が科学だ、酸素をコストゼロで作ってみろ」と言い放つ。

 一方で、植物造型写真家の奥田實さん(65)。高山植物に魅了され大雪山に通い続けるようになり、とうとう活動拠点を大雪山山麓の東川町に移し、腰を据え大雪山とその周辺の自然を対象にした作品を撮り続ける。農業を営みながら植物の命に取り組む。食べてしまえばそれまでの野菜だが、花や実、根っこを丹念に撮影、作品として仕上げる様はまさにアーティストを超えた職人技。身近な命の営みを見逃さないという点で学ぶものが多い。

 奥田さんは「写真は光の画、カメラは誰でも撮れるものだが感情や手法といった表現方法は人それぞれ独自のもの。自分は自然の伝道師として写真を撮り続けている。テーマは森、人の手の入らない太古から自然が造りあげてきた森の原風景を求めて入った。そこで見つけたものは自然の造型の美だった。ファインダーから覗く一枚の葉、一粒の実、それを支える幹や枝、新しい芽やつぼみ、どれを取っても新鮮な驚きに満ちている」と話す。

 4月のドキュメンタリー番組で一挙に人気者となった写真家埴沙萌(はにしゃぼう)さん(82)。タイトルは「足元の小宇宙―82歳、植物写真家と見つめる命」だった。トレードマークの毛糸の帽子を斜めに被り、穏やかな顔つきでとつとつとしゃべる埴さん。群馬県にある自宅の庭や周辺の里山がフィールドワーク。自然の中に数え切れないほどひしめいている小さな命。光輝くヒノキの芽、美しく舞うキノコの胞子、長い観察の時間をもってしか出会うことのできないその植物の営みを根気強く撮り続けている。埴さんにとって、雑草という言葉は無い。今では、ネットでキノコの胞子の舞う動画もアップされ、これまで知られなかった植物の世界を見せてくれる。まさこ夫人の畑から採れた野菜を作品にした「野菜人形」も人気を添える。

 肩書きは、一括りの言葉でその人を表現しようとするが、人それぞれ生き方が違うようにスタンスも違う。三人の写真家の生き方を見て、そんなことを考えた。

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