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私見公論
2014年2月22日(土)8:55

宮古の肉用牛振興について考える ①/砂川 辰夫

「30億円達成を喜ぶ」
私見公論82


 和牛生産農家にとって昨年は、宮古の家畜セリ市場開設以来、悲願であった取扱高30億円余の大台達成という、何よりも喜びに包まれた年であったと思う。

 ここへ至るまでの紆余曲折の道程を振り返ると、さまざまな出来事が思い出される。

 ご承知のとおり、和牛を取り巻く情勢は厳しく、まず外的要因として、牛肉・オレンジの輸入自由化の拡大、平成13年にはBSE(牛海綿状脳症)、世界金融恐慌による世界同時不況等、国内では宮崎県で発生した口蹄疫に始まり、東日本大震災・原発汚染・原油の高騰・穀物飼料の断続的に続く値上げ、海上運賃の高騰、飼料の高止まり等、枚挙にいとまのない出来事の連続で、その結果、子牛価格の下落、消費者の牛肉離れを引き起こし、長期に渡る安値相場は和牛生産農家を疲弊させ、離農を余儀なくされる厳しい状況に陥った。

 連日、テレビ画面を通しての生牛の薬殺処分される映像はつらく、悲しく昨日の出来事のようにまざまざと思い返される。度重なる困難を乗り越え頑張って、頑張ってつかみ取った悲願の30億達成。思わず万歳を叫んでいた。畜産部に在籍していた当時、達成わずかに及ばず(平成18・19年)悔しく、苦い思いを吹き飛ばしてくれた瞬間でもあった。

 ところで、宮古島市では、これまで草地への飼料用種子補助・子牛適正出荷奨励助成金・優良繁殖雌牛自家保留補助等々、和牛の改良を促進し、農家経営の安定化を図るため、さまざまな側面からの補助金や助成金が交付されている。また、国・県助成のもと、JAではコントラクター事業に始まり、農協有牛の県外からの雌牛導入・種雄牛の選抜や、宮古独自の計画交配、生産農家の意欲を損なわないため、生産者大会を開催し農家の奮起を促す等、改良組合を中心に畜産振興計画を立て、肉用牛増産を目指し「一農家母牛一頭増頭」大会を開催する等、農家への叱咤激励も含め、地道に勉強会を持ちイベントも多種多様にわたり行っている。

 生産繁殖地として母牛への交配例や、基本となる三元交配のパンフレットを作成し配布もしている。その甲斐あって成し得た30億達成である。さらに続けると、宮古・多良間は沖縄県より肉用牛(子牛)部門の拠点産地に認定され、また、肉用牛(肥育)部門の拠点産地の認定も受けている。

 宮古の畜産振興は一年一年、あるいはこれから10年、20年先も安定した生産農家の経営、所得向上を図る上からも、これまで以上に努力しなければならない。

 これまでは、口蹄疫や震災等による素牛の絶対頭数が減少した背景も手伝って、一年を通し高値で販売が後押しされた達成とも言える。本当の意味でつかみ取ったとは言い難い。

 これからは、右肩上がりの振興状況にあっても不安要素が無い訳ではない。今後の大きな課題は後継者の育成にあり、全農家に共通する課題ではあるが、この問題解決は一朝一夕にできるものではなく、このままでは衰退は必至である。年齢延長の一助策として、現経営者の定年延長策を考え高齢者でも牛が飼える体制作り、いわゆる、現在取り組んでいるヘルパー事業の推進を図り、最善策ではないが重要な事業で大助かり間違いない。これからも大いに利用すべきである。

 とにかく40億、50億につながる母牛増頭を目指すことが目標であることは言うまでもない。

 この先、畜産を生業とするのであれば畜産農家自らが、もっと積極的に、お互いを刺激し合い、切磋琢磨して畜産経営を魅力ある産業に育て、新規者の参入・後継者育成、担い手等の環境整備ができれば30億円は道半ば40億、50億が夢ではなくなる日が近々来るものと思う。

 セリ価格は新年から高値で好調に推移し、ちまたでは牛の話を耳にすることが多く、農家の笑顔は絶えない。「また、来月マイ、タカータカパズヤー」(来月も高値でいくね~)。

 不況など笑い飛ばせと言った感がある。

 ちなみに、今年の干支は午年であるが、和牛畜産農家にとって毎日、毎年が牛年でありたいものだ。

 砂川 辰夫(すなかわ・たつお) 1956年生まれ。宮古島市城辺出身。79年沖縄国際大学卒業後、82年JA宮古地区事業本部(旧宮古郡農協)採用。97年宮古郡城辺支所金融共済課長、2001年宮古郡本所金融事業部課長、02年宮古支店金融事業部長、04年宮古地区営農センター畜産部部長、08年宮古地区畜産振興センター長、10年上野支店長、13年下地支店長。

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