2014年4月24日(木) 8:55

「働くことは生きること」/水野 しづえ

2014.4.24 ペン遊ペン楽   


 いつだって人は働いてきた。そもそも働くという意味には、生業としての職業は勿論だが、それ以外の意味合いも含まれている。何より、日々の営み自体働くことそのものといえそうだし、日々の体験を自分の力として獲得していく子どもたちのプロセスも、学びという働きに支えられている。


 人間関係を築き上げるのも相互の働きかけによるのだし、日常の言葉にさえ『頭を働かせる』という表現があることからも、それが職業のみを意味するものではないことが分かる。つまり、働くということは生きるということと深くつながっているといえる。


 ところが人は生きていく途中で思ってもみない転機を迎えることがある。「トランジッション(転機・節目)」だ。かくいうわたしもいくつかのトランジッションを経ていま沖縄に住む。そして沖縄という場所も、歴史的転機を経て今日に至っているといえる。


 余談になるが、かつて風狂の歌者と言われた嘉手苅林昌は、移り変わっていく沖縄を揶揄してシニカルな笑いに転換しつつ嘆きにも似た『時代の流れ』を詠った。『唐の世から大和の世・・・』と、この世のものとは思えない独特の音声で唄い上げ、数々の逸話を残して逝った彼は「沖縄の島うたは、単に声を発するだけのものではない。語りかけなのだ。歌い込まれた言葉が聞く人の心に届いてはじめて〈うた〉になる」(沖縄タイムス二〇一二年九月二日「沖縄・人ばなし」掲載)と語り、それを信条に歌い続けたという。


 転機を乗り越え彼なりの佳境に達することができたのは、こうしたアイデンティティー(彼が彼であること・自己同一性)の持ち主であったからこそと推測される。ところで、キャリアコンサルティングの分野にこのトランジションを扱う理論がある。これまでは、誰もが社会に出ると当たり前のように定年まで働けるものと信じ、その先に穏やかな老後を夢見ることができた。


 ところが今や予測もしない形で「終わり」を迎えることすらあって、しかも他人ごとでは済まされない時代となってきている。それは職業生活にとどまらず家庭生活に、あまつさえ人間関係にも、つまりわたしたちの人生にこの「転機」は突然訪れる。だからといってそこで時代や他人を恨んでみたところで、何の解決をもたらすことにもならない。そんなときどう対処したらよいか、これはひどく悩ましい問題だ。


 人生の転機、それはひとつの物語が終りを迎え次へと移行することを意味する。残念ながらその時に魔法は効かない。昔はこうした際には社会の仕組みが機能した。「通過儀礼」といわれるものだ。それが揺らぎつつある今日、人生のトランジッションをうまく乗り超えていくのは大変な作業となる。実はその時重要なカギとなるのは、自分らしさやアイデンティティーの発見であるといわれる。


 理不尽にも訪れた転機を活かすには、その「終わり」をしっかりと体験することが必要であり、焦ることなくそこから始めることでしか次の物語を紡ぐことはできない。だからどんな些細なことでも自分のやり方を大事にすることだ。内面からの働きかけ(内的要求)に真摯に耳を傾けるというしごと、それはまさしく「生きること」であると言える。
(キャリアコンサルタント・一般財団法人女性労働協会認定講師)

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