2014年6月27日(金) 8:55

伊良部島勤務の思い出/下地信男

私見公論100


 2011年4月、私は伊良部島勤務の機会を得た。市の出先機関である伊良部支所におけるわずか1年7カ月間の勤務であったが、伊良部島でしか味わえない数々の貴重な体験をさせていただいた。おおらかで親切な島の人々、地域に伝わる伝統行事、やる気あふれる行政連絡員との地域興し論議、マグロやカツオ等の豊かな海の幸、豚肉の豪快な煮付け、そして毎日のように誘いのあった地域での酒宴等々…、思い出は尽きない。


 伊良部島への交通手段は船しかない。したがって、伊良部を行き来する人はすべて船で交わる。われわれ伊良部支所勤務の他、小・中・高校勤務の先生方、工事現場へ通う作業員等、出勤や退勤時の船中は〝通勤仲間〟的空気が漂い和やかだ。問題は船に弱い私にとって船酔い対策をどうするかだ。夏は台風の接近、冬は季節風が吹けば波の高さは数㍍に達し大しけになるという話だ。戦々恐々である。


 恐れていたことが9月の敬老会の日に起こった。市主催の伊良部地区敬老会の日は台風が接近していた。当日の朝は宮古島にさらに接近し、風雨は強まり、波の高さ5㍍に達するとの予報である。この様子ではフェリーは当然欠航と思いつつ、念のため桟橋へ行ってみると、なんとフェリーには人々が次々に乗り込み出航の準備。沖に目をやると風雨と波しぶきで伊良部島は全く見えない。大きく揺れる船と震える足でなかなか乗り込めない。「これも運命!」と意を決してフェリーに乗り込んだ。それからが大変だった。フェリーは上下、左右に大きく揺れ、それこそ木の葉のごとく波にもまれ、強い風雨に打ちひしがれた。私はこれまで経験したことのない揺れに椅子にしがみついているのが精いっぱいであった。船中には敬老祝いのため那覇から帰郷した人々が乗り込んでいるが、彼らは船の揺れなど気にせず楽しそうに会話を交わしている。この人たちの平衡感覚はどうなっているんだと疑うほど悠然としている。胃袋からこみ上げてくるものを感じたとき船は佐良浜港に滑り込んだ。間一髪であった。


 伊良部島では佐良浜を北地区、伊良部を南地区と呼ぶ。北地区は南方漁業で栄えた漁師のまち、南地区は農業の盛んな地域で、同じ島内にありながらいろんな面で違いや特徴を持っている。北地区の方々は無口でどちらかといえばおっとり型が多い。お酒も漁に影響するのか派手な飲み方はしないようだ。南の方はにぎやかによくしゃべる人が多い。支所長室を訪れて話し込むのは南の方が多かった。お酒もよく飲み、仲間と一緒ならとことんまでやるという雰囲気を持っている。仲間の絆という点では北も南もそれは強固で、まさに団結の島だ。その絆を育んでいるのが、北地区では「ミャークヅツ」、南地区では「ユークイ」という祭祀(さいし)にあると感じた。


 「ミャークヅツ」は旧暦の8月か9月に行われる。旧池間村と旧前里村に分かれ、住民がクイチャーを奉納し、一年間の豊漁・豊作を祈願する勇壮な祭りだ。踊り場も隣り合わせになっており、おらが村の発展を祈願しておのずとかけ声も大きくなる。輪の中に入って踊ると何ともいえない高揚感に包まれ、ウミンチュ佐良浜のパワーを感じる。南地区の「ユークイ」は旧暦の9月に1年間の豊作を先祖とともに願う神事で、五つの字集落の御嶽(うたき)において住民総出で行われる。われわれ行政からも御神酒を持参して西の佐和田集落から長浜、国仲、仲地、伊良部の順に集落の御嶽を訪問する。


 行政も一緒に祈願することに意義があると諭され、輪の中に入り祈り祝うのである。そこでは次から次へと祝いの御神酒が回ってくる。三線のクイチャーに合わせて踊り、また酒を酌み交わす。この調子で5集落回り終えたころには支えなしには歩行不能となる。北地区も南地区も先祖から引き継いだ伝統・文化を大切にしながら、地域に誇りを持って生きている。


 間もなく伊良部大橋が開通する。島民悲願の架橋だ。同時に伊良部の新たな時代の夜明けである。島だから守られてきたものもある。長い歴史の中で育まれた島の輝きが失われることなく、伊良部島に多くの幸せを運ぶ架け橋になることを心から願うものである。
 (しもじ のぶお・宮古島市観光商工局長)

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    令和2年2月1日現在

    宮古島市 54,801 人
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    世帯数 27,855 軒
    多良間村 1,126 人
    605 人
    521 人
    世帯数 513 軒
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