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行雲流水
2014年10月28日(火)8:55

「言論の危機」(行雲流水)

 先週、本紙掲載の、毎日新聞の特集「時代が変わる 社会が動く」を読んだ。映画監督の杉本信昭と詩人の谷川俊太郎が言葉について語っている。「今のこの国では、与えられた言葉、多数派の言葉を使っていれば楽に生きられる。自分の言葉を探すことは生き難さにつながる」という共通認識がそこにはある

▼詩人の谷川氏は語る。「言葉のインフレが詩を圧迫している。時代の渦に巻き込まれまいと内なる沈黙に耳を澄ませて詩を書いている」

▼杉本氏は、「居酒屋で隣のテーブルの男性が、従軍慰安婦はいなかったと持論をまくしたてている。でも、その言葉は週刊誌の中づり広告とまるで同じである」と、多数派に迎合せず、自分の言葉を使って生きることの大切さを説いている

▼「世界を読む 日本を見詰める」欄でも、言葉の問題が取り上げられている。報道は正確でなければならず、従軍慰安婦問題に対する朝日新聞の誤報は問題であるが、それをめぐって、「売国」「国賊」「反日」等の言葉が飛び交っている。それがヘイトスピーチを続ける右翼だけでなく、大手メディアでも使われている

▼作家、高橋源一郎氏は言う。「批判とレッテル貼りは違う」と、この風潮を危惧している。一橋大名誉教授、渡辺治氏も語っている。「こうした言葉は自由な言論を生むのではなく、言論封殺のための暴力でしかない。朝日の誤報問題とは別の次元の問題である」

▼高橋氏は米国の作家ソンタグの言葉を引用する。「現実を隠蔽(いんぺい)する物言いは、成熟した民主国家の名を汚す」。

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