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人生雑感
2014年10月29日(水)8:55

「逆境は、人を成長させる力を発揮します」

沖縄国際大学名誉教授 福里盛雄

1 逆境の中では、人々は悩み苦しみます

 逆境の中で人々は悩み苦しみます。そして、自分の運のつたなさを嘆き悲しみます。人は誰でも問題のない、平坦な安心で苦しみ悩みのない幸せな人生を歩き通したいと思うでしょう。それが一般の人々の考え方です。しかし、私たちの人生という航路は、そう平穏続きではいきません。問題課題という嵐が、次々と襲いかかってきます。私たちの人生にも、事業での失敗、予想していなかった難病、生きていく夢が破れて挫折の連続であります。人の一生は、多くの肉体的、精神的なさまざまな重荷を背負って長い坂道を登り続けるようなものです。

 たとえば、一生懸命に頑張ったけれど、希望する学校に入学できずに失望し、泣き苦しんだり、自分の希望の学校を卒業したものの、したいと思った仕事に就けず、やる気を失い、挫折感に耐え切れずに仕事をやめて無気力になってしまう者、愛する相手に裏切られ、生きていくことがつらくなり、自殺を考えるほどの苦しみの中にある人、これらの人々の人生は、明かりの薄い人生の裏街道を彷徨(さまよ)うような人生だということができます。
 このように、逆境は、多くの人々に悩みと苦しみを与え、ついには生きる力さえ奪い取ります。

2 逆境は、人を成長させる力がある

 「『逆』境に勝る教育なし」とディズレーリは、人間の成長のために逆境の効果を高く評価しています。教育とは、人が自分の力で生きていけるように己を育てることだということができます。自分の力で正しく生きていくためには、正しい価値判断ができなければなりません。この正しい価値判断もそれに基づく実行力が伴わなければ、それは単なる水泡にすぎない。人が正しい価値判断と実行力を身につけることは、平穏な安易な状況の中では難しいと考えられます。人生の逆境の中での悩み苦しみに流す涙こそ、人を人格的に思想的にも大きく成長させる源だと言えます。
 強靱(きょうじん)な竹は必ず節の上から芽を出します。私たち人間も困難を通してはじめて、次の成長への自信を持つのです。ルイ・ブライユは盲目になって点字を発明しました。ベートーベンは聴力を失ってから、彼の音楽の才能を最高に発揮しました。
 このように、苦難による悩み苦しみは、人を鍛え前向きに生きる力ある人格者に育てあげるのです。確かに苦難は、そのときは、好ましい状況とは思われないが、苦難に耐える力を無意識のうちに与えます。
 ですから、私たちは、苦難に遭遇したときは、安易にそこから逃れることのみを考えないで、せっかくの困難による苦しみ哀しみを体験するチャンスですから、目前の困難の意味するものを静かに耐えて考える態度を持ち続ける必要があります。
 そうすれば、今まで見えなかったものが見えるようになり、考えられなかったことが考えられるようになり、気がつかなかったことに気がつくようになり、人格的に大きく成長して、心の中に人を住まわすほどの心のゆとりを持つようになります。
 自分が困難に苦しみ悩んだその苦しみ悩みで、同じ苦しみ悩みの他人を勇気づけることもできるようになります。自分が苦しみ悩んだことのない人は、他人の苦しみ悩みは頭では理解していても、感情では捉えることはできません。そういう意味で逆境は人を全人格的に成長させる偉大な教師だと称することは、過言ではありません。

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