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2024
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旧暦:3月15日 大安 丁 
行雲流水
2014年12月2日(火)8:55

「沖縄文化協会賞」(行雲流水)

 本永清さんは研究者である前に文学者である。『春の宴』という文章がある。庭の花が日の光に輝き、雲の流れに陰る様子が繊細にとらえられている。そこにやってきた蜜蜂が、風に揺れる花から花へと動きまわっている。彼は詠む「幸ひを求めてブッセの春の旅」。そこには、生きとし生けるものへの共感がある。その生きものたちの春の宴のなかで彼は思う。「明日は私の誕生日、妻からのプレゼントがほしい」。聞こえてくる『愛の賛歌』

▼「崖から身を投げた人々はまだ地上に達していない」。以前、彼の書いた一行は、悲惨な戦争の記憶を風化させまいという思いを、読む人に喚起させる

▼彼は文学者である前に、多分、野山や海岸を駆け回る少年であった。知る人ぞ知る、彼はヤシガニ獲りの達人である

▼子供の「驚く心」を失わず、彼はそれを磨きあげ、知的探求心へと高めていった。ひたむきさも、そのままに。森の大木に登って枝葉に身を隠し、秘密のベールに包まれた祭祀(さいし)の様子を観察したことがある。一時、教職を離れて本土の出版社に就職、理想の生き方を模索したこともある

▼社会の常識など、何ものにもとらわれず、澄んだ眼で真実を追究する。これこそが科学者の態度であろう。それに郷土愛が伴って、歴史や文化の真実、日常に潜む深層を解明して、故郷をより重厚なものにしている

▼このたび、本永清さんは、宮古の言語や民俗、文化等の研究が高く評価され、沖縄文化協会賞・金城朝永賞を受賞した。これまでの精進をたたえ、喜びたい。

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