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行雲流水
2015年5月19日(火)8:55

「長田弘の詩」(行雲流水)

 「自分は、子どもではなく、大人になったんだ」と人はどんな時に気づくのだろうか。「いつの間にか大人になっていた」というのが普通の感覚だろう。しかし、長田弘の詩集『深呼吸の必要』に描かれた世界は、鋭く、ことの本質を突いている

▼「君は他の誰にもならなかった。君という一人の人間にしかなれなかった。そうと知ったとき、その時だったんだ。そのとき、君はもう、一人の子どもじゃなくて、一人の大人になっていたんだ」

▼完全だと思っていた父親に、だれとも同じ一人の不完全で孤独な姿を見た時に。また、「遠くに行っちゃあいけないよ」と言われなくなった時、大人の君は子どもの君にもう二度と戻れないほど「遠く」まで来てしまっていることを知った

▼「なぜ」と考えることが謎とスリルに満ちていた。しかし、気がつくと「なぜ」を口にしなくなっている。なにもかも、あたりまえと考える大人になっていたのである。朝永振一郎の著書に『鏡の中の世界』というのがあって、「鏡に映った人は左右が逆になっているのに、上下が逆になっていないのはなぜか」ということで、研究室で議論が沸騰した様子が紹介されている。この項は、この論議と同じテーマを踏まえて展開されている

▼詩人の知的好奇心の旺盛さを示すものだろう。彼には『人生の特別な一瞬』などの詩集があって、何気ない一瞬をとらえて、日常をかけがえのない美しいものにしている

▼先日、亡くなった長田弘の詩は、今後も多くの読者を魅了していくことだろう。

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