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行雲流水
2015年8月25日(火)9:01

「理想と現実」(行雲流水)

 トルストイは『戦争と平和』で、ナポレオンによるロシア侵略を描いた文豪だが、人生論でも「他者への愛こそ真の生の表現である」と説いて、明治以降の日本人に大きな影響を与えた。彼は博愛と非暴力主義を主張、日本による日露戦争を批判した

▼そのトルストイの影響を強く受けたのがフランスのロマン・ローランである。彼はベートーベンをモデルに『ジャン・クリストフ』を書いた。その主題は「苦悩を突き抜けて歓喜に至る」人間賛歌である

▼第1次大戦が勃発した当時のヨーロッパでは愛国心による好戦ムード一色だったが、彼は絶対平和主義の立場から、反戦を訴え、国から猛烈な反発を受けた。政権維持のために、偏狭なナショナリズムをあおり、国民の不満をそらし、外に仮想敵国をつくるのは悪しき政治の常とう手段である

▼冷戦時代、核戦争の危機が叫ばれていたとき、科学者たちはパグオッシュ会議につどい「ラッセル・アインシュタイン宣言」を発表して、戦争の廃絶と軍拡競争の破棄を訴えた。シュヴァイツァーは「生命への畏敬」の思想をもとに、生命の尊厳を説き、反核・反戦運動に参加した

▼これらのヒューマニストたちは、「理想と現実は違う」と現実主義者たちに批判され、時に弾圧された。そして、悪しき現実主義者たちによって人類は狂わされてきた

▼ロマン・ローランは言う。「理想主義のない現実主義は無意味である。現実主義のない理想主義は無血液である」。理想を掲げ、血の通った現実を築くことが課題である。

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