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行雲流水
2015年12月8日(火)9:01

【行雲流水】「貘さん」

 貘さん(みんながそう呼ぶ)は沖縄を代表する詩人である。ということで、茨木のり子の『貘さんがゆく』等の資料に当たってみた

▼第1次世界大戦と第2次世界大戦のはざまで世は不景気風が吹きまくり、ちまたには失業者があふれていた。求人広告があっても「朝鮮・琉球はお断り」と貼り紙がされていたりした。そんなことなどもあって、長い放浪生活を含めて、一生貧乏生活を送っている

▼しかし貧しさに屈服することなく、純朴な澄んだ眼で、人生のさまざまな場面をみつめ、愛し、つかみとっている。16年間も畳の上で寝ることができなかったが、『座布団』で書いている「土の上に床がある、床の上には畳がある、畳の上にあるのが座布団で、その上にあるのが楽という」などと書く

▼「一日も早く結婚したいのです、結婚さえすれば、私は人一倍生きていたくなるでしょう」と素直に書く。また、第一詩集ができたときには、人目もはばからず大声で泣いたという。そんな純粋な人柄が人々を深くひきつけている

▼『ねずみ』と題する作品がある。道路上でねずみが車にひかれ、次々に来る車にのされ(伸ばされ)、スルメのようになってしまう。ねずみは一匹のねずみでもなければ、一匹でもなくなって、その死の影さえ消え果てる。戦争による生命軽視をねずみの姿に託していきどおっているのである(茨木のり子)

▼戦後帰郷した時に見た沖縄の変貌と喪失への悲哀も描いている。現代沖縄のあらゆる主題を抱え込んでいる、貘さんは「沖縄の詩人」である。

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