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私見公論
2015年12月25日(金)9:01

【私見公論】基幹産業としてのキビ振興と宮古の農業振興を考える③/宮城克浩

夏植え・秋収穫株出し栽培について


 今期も沖縄製糖管内においては12月8日、また宮古製糖伊良部工場では12月14日から年内操業が実施されている。



 新聞報道によると搬入初日の平均甘蔗糖度は沖縄製糖が13・97度、宮古製糖伊良部工場が14・33度と基準糖度を上回っているとのことであり、生産農家や製糖工場としては順調な滑り出しにほっとしていることだろう。


 一方では、エルニーニョの影響でこの冬は暖冬との報道もあり、今後の糖度上昇へのマイナス影響も懸念される。収穫後の新鮮原料搬入や登熟の早い品種および糖度の高い圃場から順番に搬入するなど糖度向上のための工夫も必要であろう。


 さて前回のコラムでは年内操業の効果について述べた。今回はさらに収穫を前進化する夏植え・秋収穫株出し栽培によるサトウキビの生産向上と宮古の農業振興への影響について述べようと思う。


 夏植え・秋収穫株出し栽培については私が以前、宮古島支所在職時(2007年から3年間)に報告したことがあるので記憶に残っている方もいるかと思う。同栽培法は、数年前に独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構を退職され、現在は鹿児島県種子島でサトウキビコンサルタントとして活躍されている杉本明博士が十数年前に提唱しており、夏植えして翌年の秋に収穫を行い、収穫後に株出しする栽培である。そのメリットは、夏植えと同様に気象災害に強くて反収が高く、かつ秋に収穫して株出しを行うため土地利用効率が高い。また秋に収穫した後の株出しは、現在の冬収穫後の株出しと比較して、株出し萌芽時期の気温が高いために萌芽が良く、さらに夏植えに近い生育経過をたどるため、夏植えと同様の利点が発揮され収量も多く生産の安定向上が期待できる。


 宮古島支所においても、2008年10月に秋収穫が可能な早期高糖品種(農林24号、26号)を試験材料として同栽培法による実証試験を行った結果、甘蔗糖度が基準糖度以上で収穫可能な水準であった。この結果は、秋収穫が実用的技術水準にあることを意味している。


 しかし一方では、その年の気象条件によっては登熟が不十分なため、現在の製糖工場の砂糖を製造する工程では、十分な量の砂糖が得られない場合もあることから製糖工場としては、簡単には受け入れられないことも事実である。その懸念を払拭(ふっしょく)する技術として、アサヒグループホールディングス株式会社が開発した「逆転生産プロセス」がある。


 この技術はサトウキビの登熟過程において、サトウキビの生長には有用であるが、製糖過程では結晶化を阻害する還元糖のみを先にエタノールに変換することでサトウキビの汁から取り除き、結晶化材料としてのショ糖濃度を上げることで砂糖回収率を向上させる技術である。


 宮古島はエコの島としてバイオエネルギーの活用を推奨しており、実際にサトウキビの糖蜜から製造したエタノールを自動車のガソリン代替として使用していることから、エタノール製造については現実的である。ただしこの技術の導入には、製糖工程の変更や現在の砂糖生産量を維持しつつエタノールを同時に生産可能な砂糖含量の多いサトウキビ品種の普及などの条件整備が必要であることから、今すぐ実施というわけにはいかない。砂糖とエネルギーを効率的に生み出すこの技術は、未来を切り拓く技術として検討に値するものと思っている。年内操業が実現した今だからこそ、さらなる収穫の前進化による生産向上に期待して、夏植え・秋収穫株出し栽培について実用レベルで検討する時期にきていると思う。


 宮古の農業は、サトウキビと肉用牛の複合経営を基本に展開し、また冬から初夏にかけて植え付け、収穫する葉たばこ栽培も多い地域である。さらに本土の端境期を狙った冬春季出荷用の野菜生産も多いことから、現行の製糖期である冬春季は圃場および労働の競合が強く、その緩和が望まれる。収穫の前進化はサトウキビと葉たばこや園芸作物との輪作、またサトウキビの増収により収穫期間が拡張されれば労働競合の緩和を可能にする。肉用牛生産者にとって粗飼料の自給率向上は経営面で重要な課題であり、サトウキビの梢頭部の飼料化は生産者にとってありがたいものである。


 収穫の前進化および収穫期間の拡張により、梢頭部の長期安定供給につながれば粗飼料の自給率向上に有効な手段でもある。基幹作物としてのサトウキビは、園芸農家や畜産農家をも支える、まさに宮古農業の基幹作物でありたいものである。

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