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行雲流水
2017年7月22日(土)9:01

【行雲流水】(天の根)

 昨年の夏の終わりに、県立宮古病院長本永英治氏のエッセイ集「天の根 島に生きて」を手にした。書店でこの本を目にしたとき表題の「天の根」の言葉が心に響いた。探し求めていたものに出会えたうれしさが一気に込み上げてきたものです

▼ニライカナイ、沖縄の民間信仰で海の彼方の祖霊神のすむ異次元の世界(楽土)のことですが宮古島のティンヌニ(天の根)は水平線を意味するもので、ニライカナイのような神界を意味するものではない。しかし、海原に浮かぶ島々の世俗時空と神界・仙境とを隔てる意味で表現されたのではないかと考えている

▼東京大学名誉教授佐藤正英氏の著書「古事記神話を読む」に原初神々である伊邪那岐大神(いざなぎのおおかみ)が須佐之男命(すさのおのみこと)をとがめる件(くだり)で「根」の意味について吟味している

▼スサノオノミコトが「根の堅州国(かたすくに)に参りたい」と答えてイザナギノオオカミの怒りを買ってしまう。「根の堅州国」とはイザナギノオオカミが命からがら逃げ帰った黄泉国のことで世俗時空に身を置いたままでは行くことのできない処だ

▼「根とは地底にあるものと解するのが通説である」と本居宣長の説を踏んで「根」は地表に現れている表象と深くかかわっていると説く。しかし、この理でティンヌニを説明するのは無理だ。「天の根」は天空にある神の作為であり天から降りてきたものとみるべきだろう

▼ティンヌニというミャークフツの響きは古の宮古島の人々の知覚の中にあっては遥か遠くに見えて形はなく、時には豊穣と災いをもたらす未知の世界としての恐れと敬いが滲んでいる。

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