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私見公論
2017年12月9日(土)8:54

【私見公論】ことばと文化/大城 裕子

 12月2日、3日に札幌市で開催された「平成29年度危機的な状況にある言語・方言サミット(北海道大会)」に当協会も参加した。同サミットは日本における消滅の危機にある言語・方言に関する調査研究成果や各地域の取組事例について、広く知ってもらうために毎年開催されているもので、危機言語・方言の聞き比べや協議、講演等が行われた。文化の多様性を支える言葉の役割や価値について共に考え、危機的な状況を改善するきっかけにしようとする催しである。各地域から参加した人々がいかに自分たちの言葉を愛し、次世代に繋げたるための努力をしているかが伝わり、参加した私たちにとっても方言の保持・継承の重要性を再認識する機会となった。



 神歌(ニーリ・フサ等)やんきゃーんじゅく、年長者が使ってきた美しい敬語や民謡など、シマのことばを遺す努力をしながら、ことばに注目した文化振興を図っていけないものかと常々考えている。手本は松山市。正岡子規などの文人を輩出し、夏目漱石の「坊っちゃん」や司馬遼太郎の「坂の上の雲」の舞台となるなどの恵まれた文化的土壌を生かして、「ことばのちから」をキーワードとした街づくりをし、各種事業を展開している。「俳句甲子園」「坊ちゃん文学賞」「響け!!言霊〝ことばのがっしょう〟群読コンクール」等、松山市から発信する文化事業は今や全国区になっている。


 宮古でも今年度「宮古島文学賞」がスタートした。この文学賞事業はあらゆる可能性を秘めていると信じているが、その一つとして「ことば」を意識するようになることが期待される。市民が応募作品の創作をとおして、あるいは応募作品を読むことによって、豊かな言語世界に触れられることは意義深い。多くのことばに出会いながら、魂を磨き、一人一人がより豊かなことばを発することに繋げられたら何と良いだろう。


 「体は食べた物で作られる。心は聞いた言葉で作られる。未来は話した言葉で作られる」北原照久さん(ブリキのおもちゃ博物館館長)の言葉である。人を育て、癒し、また自分自身をも鼓舞するために、ことばの持つ力は大きい。その力で私たちも日々の暮らしを潤いのあるものにし、穏やかに、心豊かに生きていけないだろうか。子どもたちにとっても周囲の大人たちが発することばはそれこそ人生を左右する。優しく、時には愛情をのせたことばで厳しく諭し、私たちの島の宝を大人の「ことばのちから」で大切に育んでいけるようにしたい。大人にとっても、良い言葉はいつも背中を押してくれるものだから。


 現在、日本の各地で「デザイン」をキーワードに掲げた地域活性化施策や六次産業化プロジェクト等が数多く行われている。注目を集めるキャラクターやスタイリッシュなパッケージだけでは、一過性のもので終わってしまいがちだが、外観を良くする努力をしながら、地域の本質的な課題解決のために何をすればよいのかを考えていかなければならないと思う。「本質的な課題」の定義も難しいところだが、目には見えない部分をより良いものにしていく努力が重要である。市民にとっても島を訪れる人にとっても宮古島が心地よい場所であり続けてほしい。


 冒頭の方言サミットは、来年度、宮古島市で開催予定である。各地域でことばを大切にしている多くの関係者が島に集うことになる。これを契機として、さらに方言継承の機運が高まることを期待している。シマの文化の根っこである方言に光を当てながら、日々使うことばも大切にする心豊かな島として、宮古島がこれからも輝き続けてほしい。


*「危機的な状況にある言語・方言」とは、ユネスコが平成21年に発行した”Atlas of the World’s Languages in Danger”で消滅の危機にあるとした8言語・方言(アイヌ語、八丈方言、奄美方言、国頭方言、沖縄方言、宮古方言、八重山方言、与那国方言)および東日本大震災において危機的な状況が危惧される被災地の方言を指す。(文化庁HPより)
(宮古島市文化協会会長)

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