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2018年7月31日(火) 8:54

【行雲流水】(『博士の本棚』)

 小川洋子の『博士の本棚』のエッセーには、本への愛情があふれている。先に評判になった『博士の愛した数式』は、交通事故で80分しか記憶が持たなくなった数学博士と、家政婦とその息子の心の交流を描いた温かい愛の物語である


▼その中での博士の言葉も印象深い。「なぜ星が美しいのか証明できないように、数学の美しさを表現するのも困難だが、実際の生活に役立たないからこそ、数学の秩序は美しい」


▼ある数の約数(その数自身を除く)を全部足すとその数になる数が完全数である。例えば28の約数を足すと、1+2+4+7+14+28であるから、28は完全数である。そういえば江夏の背番号が28である。そのことからひらめいた発想で、作家は、江夏豊を愛する数学者を主人公に『博士の愛した数式』を書き始めた


▼「散歩」というエッセーがある。「犬たちは散歩をなぜ熱狂的に愛するのか、永遠の謎である。将来、彼らがしゃべるようにならない限り謎は決して解けないだろう」。友人の愛犬はいろいろなパフォーマンスで散歩を催促する。友人がこの文章を読むと、わが意を得たりと、大変喜ぶに違いない


▼三角形の内角の和が180度であることは誰でも知っている。しかし、彼女の発想は飛躍する。「この世のあらゆる三角形、大きいのも小さいのも、砂漠でも、熱帯雨林でも、私が死んだ後も内角の和は180度であり続ける」。彼女は真理の普遍性に驚いてみせる


▼小説の内容を楽しむのもいいが、作者の発想の妙に触れるのも、楽しいことではある。(空)