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行雲流水
2018年11月27日(火)8:54

【行雲流水】(くじけないで)

 「さびしくなった時/戸の隙間から入る陽射しを/手にすくって/何度も顔にあててみるの。そのぬくもりは/母のぬくもり。おっかさん/がんばるからね/呟きながら/私は立ちあがる」。柴田トヨさんの詩である

▼柴田さんは、92歳で息子にすすめられて詩を書き始め、98歳で詩集『くじけないで』を出版、101歳で亡くなるまで詩を書いた。純粋でみずみずしい感性で、人生を前向きにとらえて書かれた数々の詩は、世代をこえて多くの人に希望と勇気を与えている。詩集『くじけないで』は累計200万部のベストセラーになった

▼高齢化の時代。高齢者の多くが何をするでもなく、時間を持て余している。シルバー川柳にその一端をみる。「食っちゃ寝て豚ならとっくに出荷済み」。「目覚ましのベルはまだかと起きて待つ」。「振り返り犬が気遣う散歩道」

▼それに比べると柴田さんは若々しい。詩の一節に書いている。「九十八歳でも恋はするのよ/夢だってみるの/雲にだって乗りたいわ」

▼『貯金』という詩がある。「私ね/人からやさしさを貰ったら/心に貯金をしておくの。さびしくなった時/それを引き出して/元気になる。あなたも今から/積んでおきなさい/年金よりいいわよ」。もうひとつ、『目を閉じて』。「目を閉じると/お下げ髪の私が/元気にかけまわっている/私を呼ぶ母の声/空を流れる白い雲/何処までも広い菜の花畑/九十二歳の今/目を閉じて見る/ひとときの世界がとても楽しい」

▼「ひとときの世界」は生涯の象徴。美しい人生である。(空)

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