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行雲流水
2018年12月18日(火)8:54

【行雲流水】動的平衡

 コップの水の中にインクの一滴を落とすと、インクの分子はばらばらに拡散するが、インクの分子が元の一滴にもどる(秩序に組織される)ことはない。このように物は秩序から無秩序の方向に進む。物理学でいうエントロピー増加の法則である。ところが、バラは、ばらばらの分子を組織して一輪の花を咲かす。生物体は何らかの仕組みで「負のエントロピー」を取り入れていることになる

▼このことを波動力学を確立してノーベル物理学賞を受賞したシュレーディンガーが著書『生命とは何か』に書いた

▼この書に刺激されて福岡伸一は分子生物学を専攻、20年余にわたって細胞の研究をしてきた。彼は、細胞の分解(エントロピー増加)と合成(エントロピーの減少)との動的な平衡状態が「生きている」ことだと考え、著書『動的平衡』に書いた

▼また、ヒトの細胞について書いている。ラジオは部品が壊れると、その部品に応じて故障するが、細胞は周囲の細胞との関係を自律的に、柔軟に変化させる。生命体は機械論をはるかに超えた、いわば動的な効果として存在している

▼典型的な例は脳細胞の働きである。脳細胞はニューロンとも呼ばれ、互いに連結して回路をつくり、この回路を電流が走ることで脳は働いている。ピアノの練習をすると、脳内に新しい回路が形成されて、難しい曲も弾けるようになる

▼ヒトは700万年間飢餓状態に置かれて、生き延びることが唯一の目的であった。しかし現在の人間には、限りない可能性が開かれているということである。(空)

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