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【特集】新年号
2019年1月1日(火)8:59

世界に認められた伝統行事/宮古島のパーントゥ

ユネスコ無形文化遺産登録

 「宮古島のパーントゥ」など8県10行事からなる「来訪神 仮面・仮装の神々」は昨年11月、国連教育科学文化機関(ユネスコ」で無形文化遺産登録に決定した。その朗報を受け、平良の島尻や上野の野原では、住民らが喜びに包まれていた。両地域とも「先祖代々継承された民俗行事が評価され誇り、今後は地域活性化の起爆剤として発展させたい」と展望する。文化庁では新年度に認定証伝達式を行う見通し。

島尻のパーントゥ


ンマリガー(産井)から現れた3匹のパーントゥ=2017年

ンマリガー(産井)から現れた3匹のパーントゥ=2017年

 島尻地域は、宮古島の北部に位置し、基幹作物のサトウキビを中心とした純農村地帯。和牛改良による宮古銘柄の確立に大きな貢献がある。人口は250~300人。世帯数約150戸。「島尻のパーントゥ」は国指定の重要無形民俗文化財で、保持団体は島尻自治会(宮良保会長)。

 ■由来

 「古い時代に、島尻の北東部のクバマと称する海浜に、パーントゥの仮面がクバ(枇榔)の葉に包まれて流れ着いていたので、それを持ち帰り、ムラの厄払いの行事に用いたのが始まりであると伝えられている」(国選択無形民俗文化財記録作成『島尻のパーントゥ調査報告書』1985年発刊、平良市教育委員会)。

 ■パーントゥ・プナハ

 伝統行事「サトゥプナハ(里願い、里祭り)」の中でパーントゥが登場することから、パーントゥ・プナハとも呼ばれている。近年は「パーントゥ」と略されている。

 ■ンマリガーで誕生

 青年3人が扮するパーントゥは、親パーントゥ(母パーントゥともいう)、中パーントゥ、子パーントゥの3匹。全身にツル草のシイノキカズラ(方言名キャーン)をまとい、里願いで使った縄を腰に巻きつけて結ぶ。また、カヤの先を結んだマータと呼ばれる魔よけの呪具を頭部に固定する。ンマリガーの底の泥をすくって全身や仮面に塗りつけ、片手に杖を持つと、住民が恐れるパーントゥの誕生である。

 ■悲鳴、恐怖の声

 夕刻、道路に住民らがさまざまな思いで集まる。突然、パーントゥが駆け出すと、固まっていた住民らはクモの子を散らしたように逃げる。ざわめき、悲鳴、恐怖の声が一帯に響く。パーントゥは追いついて容赦なく泥を塗りつける。母親に抱かれた赤ん坊は恐ろしい仮面に大声をあげて泣く。新築の家に上がり込み、部屋中に泥を塗り払い清める。

 ■海で人間に戻る

 3匹のパーントゥは暗闇の海に入り、全身にまとった植物を脱ぐ。身体と仮面を洗って清め、人間に戻る。


野原のサティパロウ


行列で移動しながら災厄を払い、福を招くサティパロウ=2013年

行列で移動しながら災厄を払い、福を招くサティパロウ=2013年

 上野野原は宮古本島のほぼ中央に位置し、基幹作物のサトウキビ生産などで栄える。人口約200人、世帯数56戸。33年前の1986年に、当時の上野村は国選択無形民俗文化財記録作成で『宮古のパーントゥ-野原のパーントゥ調査報告書-』を発行。その後、国の重要無形民俗文化財に指定された。保持団体は野原部落会(渡久山隆会長)。

 ■由来

 文献上、現在の位置に野原村が成立したのは1716年。野崎村(久松)からの移住者が多かったと伝える。伝統行事「サティパロウ(サティパライともいう。里払い)」は古くから継承され、その行事に仮面を着けたパーントゥなどが参加。災厄を払い、福を招く祭祀とされる。詳しい由来は不詳。

 ■今月28日に開催へ

 この行事は毎年旧暦12月最後の丑(うし)の日に執り行うのが習わし。今年は新暦1月28日にあたる。

 ■準備

 男の子が仮面を顔にあてて来訪神のパーントゥに扮する。また、子どもが太鼓を打つ役とホラ貝を吹く役を担う。女性たちは、頭や腰にクロツグ(方言名マーニ)やサキシマボタンヅルを巻いて固定し、両手にヤブニッケイの小枝を持つ。一般の男性は参加しない。

 ■本番

 参加者は、野原集落外側の道路から大御嶽(うぷうたき)に向かって祈願した後、行列で出発する。パーントゥを先頭に、ホラ貝が吹かれ、太鼓が打たれ、女性たちが両手の小枝を上下に打ち振って音を立て「ホーイ、ホーイ」と掛け声を発する。辻では円陣を作り、左回りを3回行い、女性たちは円陣の中にいるパーントゥなどに向かって両手の木の葉を上下に振り動かして「うるうるうる…」と唱えながら中央に集まる。円陣は解かれ、再びパーントゥを先頭に行列で移動する。

 ■終了

 最後は集落外側の南で、女性たちは身につけていた植物を捨て、1日限りの行事は終了する。パーントゥは仮面を外し、人間に戻って笑顔をみせる。


宮古島のパーントゥ 島尻のパーントゥと野原のサティパロウの総称。パーントゥとは 異様な形相の鬼神、お化け、妖怪の意味。島尻住民は、かつてパーントゥが顔にあてる木彫り仮面を日本語で「仮面」と呼ばないで方言で「キーガ・フタ」(木が蓋、木の蓋)と言っていた。ンマリガーとは、産井のこと。島尻集落では、赤ちゃんが産まれた時はンマリガーの水をくんできて、産湯として赤ちゃんを入浴させた。「産湯に浸かる」には「新たに生まれ変わる」などの意味がある。

ユネスコの無形文化遺産 文化の多様性や人類の創造性を証明する芸能や儀式、工芸技術などを保護する制度。

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