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行雲流水
2019年3月26日(火)8:54

【行雲流水】(吉野弘の詩)

 詩人吉野弘は、変哲もないことがらに深い意味を発見、または創りだして、詩を書いている

▼「I was born」という詩がある。I was bornは受身形である。従って、人間は生まれさせられるので、自分の意志で生まれたのではない。そのことを原点に、生命が生まれ、つながっていくことの不思議さを一編の詩に展開している

▼さらに、花もおしべやめしべがあるだけでは不十分で、虫や風が訪れて、おしべやめしべを仲立ちする。そのことから「生命は、その中に欠如を抱き、それを他者から満たしてもらうのだ」と導き、「私もあるとき、誰かのための虻(アブ)だったろう、あなたも、あるとき、私のための風だったかもしれない」と結ぶ

▼彼の詩に込められたメッセージも独特である。「祝婚歌」にいわく。「正しいことを言うときは、少しひかえめにするほうがいい。正しいことを言うときは、相手を傷つけやすいものだと気付いているほうがいい」

▼娘「奈々子」に語っている。「お父さんがお前にあげたいものは、健康と自分を愛する心だ。自分を愛することをやめるとき、ひとは他人を愛することをやめ、世界を見失ってしまう」

▼文字や、言葉についての遊びも面白い。「韓国語で馬のことをマルという、言葉のことをマールという。言葉は駈ける馬だった、熱い思いを伝えるための-」。「母という字は舟に似ている。すこし傾いた小舟のよう。愛の荷物を積みすぎているせいでしょうか」。詩人は、適切な対応関係を考えて、世界をより豊かに感じようとしている。(空)

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