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私見公論
2019年7月26日(金)8:54

【私見公論】虫で遊ぶ/新田 由佳

 今も昔も虫は子どもたちの遊び相手である。私も子どもの頃には虫でよく遊んだ。チョウやトンボを捕まえるというのはスタンダードな遊びであるが、男の子たちはさらに進んで、捕まえたセミの胴体に糸を巻き付け、ジジジと音を立てて高く飛び立とうとするのを凧のようにして遊んでいた。かわいそうに、と見ていたのを思い出す。

 私がもっとも慣れ親しんでいたのはダンゴムシだったと思う。正式にはオカダンゴムシという名前で、世界中で見られる節足動物である。これを指の上に乗せ歩くのを眺めていると、くすぐったくておもしろい。刺激を与えるとまん丸になり、それを手のひらでころころと転がすとまたおもしろい。飽きずにいつまでも遊んでいた。

 私にはどうしてもできなかった遊びもある。「兵隊虫遊び」である。「兵隊虫」は宮古では見たことがないが、和名を「ツマグロカミキリモドキ」という甲虫だ。体長1センチほどの茶色っぽい小さな虫で、ホタルに少し似ている。どのような遊びかというと、2人、または数人で行う対戦型ゲームで、この「兵隊虫」を各自1匹捕まえて、自らの肘の内側にセットする。そしてせーので一気に肘を曲げ、なんと、その圧でもってこの虫を潰すのだ。この時点ですでに恐ろしいが、まだ続きがある。「兵隊虫」には毒があり、虫を潰した肘の内側は赤くただれてしまう。勝負は、ただれたところを見せあい、この部分に水ぶくれができていたほうが負け、という残酷なうえに自虐的な、世にも恐ろしい遊びなのであった。

 子どもの皮膚に炎症や水ぶくれを起こすのはカンタリジンという毒で、口にすると死に至る場合もあるらしい。この遊びは本当に危険なので、もし「兵隊虫」を見つけても決して真似しないでいただきたい。

 記憶の奥深くにしまい込んでいた「兵隊虫遊び」を思い出したのは、現在総合博物館で開催している企画展「みや昆―昆虫大集合―」で昆虫について調査を行っていたからである。さまざまな昆虫のことを調べていくうちに、ふと、あの忌まわしき遊びを思い出したというわけだ。本企画展ではチョウや甲虫、セミ、バッタなど、宮古に生息する昆虫を中心に展示し、また、琉球大学博物館(風樹館)との共催で、ヤンバルテナガコガネなどの貴重な標本も展示している。ヤンバルテナガコガネは、沖縄島の固有種で日本最大の昆虫である。絶滅危惧1B類に位置付けられている。ほかにも総合博物館では初めてとなる昆虫の生体展示を試みている。生体展示しているのはヘラクレスオオカブトやアクティオンゾウカブトなどで、珍しい昆虫に触れることのできる時間も設けている。

 冒頭でオカダンゴムシは、節足動物であると書いた。ムシとはいうものの、昆虫ではないのだ。では昆虫とは何かというと、一部例外を除き体が頭部、胸部、腹部でできており、その頭部に2本の触覚、胸部に脚が6本と翅が4枚あるものをいう。

 3月に市教育委員会が発刊した『みやこの自然』によると、現在宮古諸島では1735種の昆虫が記録されているが、まだまだ未記録の種はあるようで、これからも多くの種が見つかるだろうとしている。また昆虫の生息環境は多様であり、それぞれが餌の豊富な場所や繁殖に適した場所を探し求めて生息している、と記されている。

 しかし近年、かつてはふつうに見られた昆虫たちが姿を消しているという。いくつかの要因が考えられるが、現在宮古諸島では開発が進み、昆虫たちの生息環境にも影響が出ていることは認めざるを得ない。多良間を含めた宮古地域の森林率は17・9%、宮古だけでは16・6%と非常に低い。もともと森林率の低い宮古のいたるところでここ数年、森を削り海沿いを削り開発工事が行われている。昆虫が暮らすのは、林地や茂み、草地、水辺などである。人の暮らしが豊かになるのは喜ばしいことではあるが、生き物たちの豊かな生息環境を奪うことなく実現できる豊かさであってほしいと、願わずにいられない。

 新田 由佳(にった・ゆか)1968年生まれ。大阪府吹田市出身。大阪府立北千里高校卒業後、事務職やサービス業、大学研究所資料室等で勤務。2011年8月宮古島市に移住。12年9月宮古島市総合博物館学芸係嘱託職員(学芸員補)(現職)。14年近畿大学豊岡短期大学通信教育部で幼稚園教諭2種免許、保育士資格等取得。18年6月より宮古島市文化協会事務局。ほかに、宮古島市総合博物館友の会事務局長、宮古郷土史研究会運営委員等。

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