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私見公論
2016年7月29日(金)9:02

【私見公論】舟は帆まかせ帆は風まかせ/仲間明典

さらばグレートブリテン


 国家としての分裂も招ききれないイギリスのEU離脱、南シナ海問題で国際海洋法条約に基づく仲裁裁判所の判断を蹂躙(じゅうりん)した中国、シリア問題、IS、ヨーロッパのテロ、アメリカの人種差別と銃社会、中南米の治安、バングラデシュのテロ、トルコのクーデター、身近なものでは北朝鮮の核実験とミサイル、尖閣問題、ソ連の領海侵犯、未曾有の不穏が立ち込めている。



 10年ほど前、途中まで読んだキッシンジャーの外交という本を思い出した。滅びない国家はない。


 16世紀世界を席巻した大英帝国、産業革命で世界経済をリード、スペイン艦隊を駆逐、地球上に植民地を増殖させ、大戦のほとんどを勝利したイギリスが霧散しようとしている。


 国民投票の結果によるものであることは周知のとおりであるが、背景もまた周知の通りで、移民、イスラムへの嫌悪と恐怖、EUへの負担とうま味のバランス、それにISとの絡み、シリア問題、それと関連したアラブの春、テロの拡大、透けて見えるのは大国と言われる先進国の石油利権と誘導された中近東の不安定である。
 ここで、少し世界史の暖簾(のれん)を潜ると、クリミア戦争に起因し、時間を経て1916年第1次世界大戦の途中でイギリス、フランス、ロシア間で中近東の石油資源の利権を巡ってオスマントルコの領土を分割させるべく新たな内戦を誘導する。アラブを分断させ新たな国を発足させる。その際に国境を決めるべく結んだのがサイクス・ピコ協定である。その内戦の時に登場したのが、「アラビアのロレンス」であるが、現在のイラン、イラク等の中近東とアフリカ北部の国境線が不自然なのはそのためである。


 身から出たさび、歴史の風のブーメランだ。


 さて南シナ海問題だが、根底には中国の王都意識が窺える。秦の始皇帝に端を発する「天下統一」の考えである。全世界は中国の皇帝を頂点に同心円的に広がっているものである。よって中国の首都が世界の中心であり、それ以外は属である。現在は中国共産党が世界のかなめであり習近平が天子である。中華思想のポイントだが、現代社会ではたまったものではない。


 台風のシーズンがやってきた。漁師は当然ながら、明日の天気に敏感に反応する。風向きや波の強さ、降雨の読みは、時にテレビより当たる。「板子一枚下は地獄」。生活と死が気象に弄ばれるのでしょうがない。


 結婚式のあいさつで、人生をよく航海に例える。嵐も吹けば雨も降る。二人力を合わせて人生の荒波を乗り越えてくださいと…ちょっと待てよ、もし風を読み違えた夫婦船はどうなる。沈没か座礁だ。無責任な例えだと根性の曲がった私は思うのだが、いかがか。風采で片づけるには厳しすぎる。


 2人の前途だけでなく、特に意識はしないが、私たちの日常に「風」は不可欠な大事な存在だと思う。


 地球が自転を始めてから成層圏以下で風が発生してからの付き合いだが、季節感の乏しい宮古でも、春の風、夏の風、秋の風、冬の風、それに台風と暴風、風神もいれば、北よりの風、南よりの風、貿易風に偏西風、気象だけでも深いかかわりに気づく。


 日本海の沿岸地域では、風のことを「あい」と言うらしいが、立ち止まって周囲を見回すと、「あい」だらけである。自然との付き合いでは風光明媚、風雨、風浪、風雲、風雪流れ旅に風向き、対する風紀、風邪に風疹、痛風だって身内みたいなものだ。まだまだある。風土に風格、風貌に風采、江戸文化やフランスが得意な風刺、あげれば混乱をきたしてしまう。


 そういえば、琉球の風という偏西風もあったし、神風という突風もあった。


 人類が繰り返してきた戦争の嵐、フロイトからアインシュタインの質問に返答した封書に「人類から戦争をなくすことはできないが、起こさない努力はできる」と記されているとの記憶がある。今駆け巡っている風、痛風にならないことを願っている。

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