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ペン遊・ペン楽
2011年9月7日(水)23:00

ハイヌ(畑の)グルクン/久貝 勝盛

ペン遊ペン楽 2011.9.8

 

 宮古諸島には日本最大のトカゲで宮古・八重山の固有種であるキシノウエトカゲがいる。固有種というのは世界中でその地域にしかいない種のことである。


 2011年3月30日、琉球大学の狩俣繁久先生による「未来のミヤークフツを考える」講演会に触発されて、このキシノウエトカゲについて「人々の生活との関わり」、「方言名」を調べてみた。大変興味深いことがわかった。

 まず、生活の中では薬用動物あるいはタンパク源として関わっている。効能は定かでないが薬用動物としては小児喘息に効くということで農作業時に取れたキシノウエトカゲは焼いて子供たちに与えられた。一方、体力の弱っている子供たちやお年寄りには滋養強壮食物として重宝がられたようだ。戦中、戦後の食糧難の時には兵士にとっても島民にとっても貴重なタンパク源にもなった。

 昔は、イモ畑でよく見られた。耕していたクワで時々胴体が切断されたキシノウエトカゲがでた。それを持ち帰り体の弱い子供たちやお年寄りには焼いて与えた。また、春先には畑の境界線として積まれた石垣の隙間から顔を出した。それをさっと棒切れでたたいて捕らえた。確かにトカゲ類は体温調節機能を持たない変温動物である。石垣等の中で冬眠していたキシノウエトカゲは春先になると日光浴をして体温を上昇させる。そのため、春先は動作が鈍くなる。古老たちはそのことをよく知っていたのである。しかし、恋の季節(4月~6月)になると動きが敏捷になるのでなかなか簡単には捕れない。

 キシノウエトカゲの方言名は変化に富んでいる。一番多い方言名がバカギィアで宮古全域(調査地域23カ所)の約43%を占める。それに類する音節の地域を加えると56%になり、ba(バ)のつく地域を加えると約86%にもなる。また、言い得て妙な方言としてパリイスュ(久松)、パリヌカタカス(久松)、ハイヌグルクン(佐良浜)、ヒーマバカッチャ(佐良浜)、バカッザァ(伊良部)、パイヌカタカス(伊良部)、ヒーヌバカッチャ(池間)、バカグサ(多良間)、ツナギィァ(下地)等がある。

 これらの方言名にはその生態が見事に言い表されている。例えばハイヌグルクンとは畑のグルクンという意味で味覚が魚(グルクン)に似ているところからきている。パリヌカタカスは体色がカタカスという魚(オジサン、ヒメジ科)に似ているところからきている。ある地域ではキシノウエトカゲが海に入ってオジサン(宮古の一般的な方言名カタカス)に変身したということでこの魚をまったく食べない。これにはもっと深い理由がありそうだが、今回の聞き取り調査では明らかにできなかった。ヒーマバカッチャとは昼間見られるトカゲという意味である。バカッチャ、バカギィヤとはトカゲにつけられた固有の名前であるが、若い父親という意味もあるという。夏場には動きが敏捷になるところからきているようだ。ツナギィアについては意味不明である。
(宮古ペンクラブ会員)

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