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ペン遊・ペン楽
2012年6月27日(水)22:24

花に癒やされて/高橋 尚子

2012.6.28 ペン遊ペン楽

 

 関東は梅雨を迎え、この季節ならではの花々が街を飾っている。夏の酷暑を控えての束の間の休憩のような感じである。

 今年は暖かさがなかなか訪れなかった。ようやくうららかな陽気になり満開の桜を目にしたときは、これまで何度も見たはずの桜がいつもの年よりも美しく崇高にさえ感じられ、心に深く染み入るものがあった。


 昨年の春先には、国中を震撼させる大震災と原発事故が起こった。被災地の哀しみと苦しみに心の平穏が乱れた。桜の花がいつ咲いたかさえ記憶に残っていない。あれから一年が経ち、被災地の大地にもまた春が訪れた。ゆっくりとではあるが、少しずつ元気を取り戻しているとの情報を耳にするとほっとする。

 手入れのままならないわが家の小さな庭にも、今年はいつもの年よりもたくさんの花が咲き、日々の雑事に翻弄されため息をつく心の狭いわが身は癒やされている。春には植えた覚えのないスミレの花が、こぼれ種で増えに増えてプランターを埋め尽くした。 

 スミレの後には想い出の花たちが次々に咲き、植えたときに思いを馳せては懐かしんだ。

 薄紫の美しいテッセンは、看護学校の卒業を機に辞めた職場の皆が贈ってくれたものだ。当時、主婦として子育に看護学生にと、忙しい毎日を送っていた私を励まし支えてくれた仲間たち。花を見ながら、一人一人の顔を想い出しては感謝をする。

 玄関先のフェンスを飾る紅い蔓バラは、患者さんの妻が病室を飾り、花が終わった後の茎を挿したものだ。この患者さんと関わった日々も忘れることができない。壮絶な闘病生活の中、夫婦で支え合うということや生き抜くということなど、本当に多くのことを学ばせてもらった。紅い蔓バラの花が咲くたび、私はこの患者さんと奥さんを想い出す。

 今の季節はガクアジサイが梅雨の日々を活き活きと鮮やかに飾っている。湿気を含んだ空気のなか、花の冠を載せたように勢いよく咲くガクアジサイの花を見ていると、梅雨の鬱陶しさも吹き飛んで笑顔になっていく。今から十数年前のこと。ある患者さんの娘さんから、日ごろの看護のお礼にと、自宅で咲いたガクアジサイの切花を頂きそれを挿し木した。いつも甲斐甲斐しく母親を看ていた娘さんだった。花を育てることが好きだと話していた彼女も、花に癒やされながら一日を過ごしていたのだろうか。

 父の形見に伊良部島から持ってきたアマリリスにも、十年ぶりに赤くて大きな花が咲いた。「頑張るんだよ」父にそう言われているようで、胸が熱くなった。花が終わり花茎の上にしわだらけの花の痕が残るまで、日に何度も眺めた。また、来年も咲いてくれることを願って「咲いてくれてありがとう」と花に声をかけた。

 人はどんなものにも心を揺るがされ、うれしさや喜びを感じることがある。出会いの中で気持ちと気持ちを結ぶ花があり、私はそんな花や樹を愛しむ。

 もの言わぬ花たちは、咲く時期を誤ることなく、季節と共にただそこに在り、力まず気負わず逆らわず、自然になるがまま花を咲かす。そんな花に癒やされ、今日も気持ちを開いて前に進む私がいる。
 (宮古ペンクラブ会員・看護師)

 

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