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ペン遊・ペン楽
2013年12月12日(木)8:55

孫との夏の思い出から…/下地 昭五郎

2013.12.12 ペン遊ペン楽

 今年の夏も、昆虫好きの孫(小5)が埼玉からやってきた。一人旅だ。宮古の孫たちとおしゃべりするのも一年ぶりだ。

 滞在2日目、彼らを連れて昆虫採集へ出かけた。場所は植物園。途中車窓からサトウキビ畑のいつもの景色が目に入る。長引く小雨傾向(ある期間は降雨量ゼロ)の原因によるサトウキビの痛ましい姿を孫たちに説明する。「みんな水が欲しい」と言っているよ。孫たちの神妙な表情がルームミラーに映る。

 植物園にはすでに多くの観光客の姿があった。駐車して裏手の調整池(溜池)へ歩いて向かう途中、炎天下の道端から漂う草いきれが鼻を突く。ちょっと入ると眼前の光景に茫然自失。なんとそこはほぼ完全に干し上がっているではないか。しかも全面的に亀裂が走っていて見る影もない。それでも周辺のホテイアオイはなんとか緑を保ちその薄紫の可憐な花を咲かせて力強く生を主張している。

 奥へ進むと調整池のメインとなる大きな池もほとんど中央からひび割れており、その光景には眩暈を覚えるほど強烈な『生の不在』をいやでも印象付けられた。大きな木の周辺にだけがほんの少し水が残っている。その近辺には小学生らしき子らが暑さも忘れてほんのわずかな水たまりから何かを掬いあげている。どうやら一カ月以上も続く雨なしの猛暑で弱った小さな魚を捕っているようだ。よく見ると周辺はヘドロ状態。ウナギたちは命尽きて干物と化してなんともおぞましい風景だ。小動物たちもプカプカとなんとか生き延びようともがいている。周辺は悪臭が漂う。まさにそこは小さな生き物たちにとって名状しがたい生き地獄だ。阿鼻叫喚の体!命の尊厳とその源である水の尊さを孫たちと改めて噛みしめた。この現実は孫たちの目にどう映ったのだろうか。昆虫採集もろくに楽しめない孫たちの表情は、茹だる猛暑と小動物たちのあのグロテスクな現実を見たせいか、どことなくいつもの明るさとは違って感じられた。

 見た目もかなり弱った小魚を生け捕りにした子供たちに「早くお家に帰っておいしい水をあげなさい」と促して、その場を後にした。降雨を期待しつつ。

 その数日後、待望の慈雨を台風12号がもたらした。あの調整池の小動物たちのことが頭をよぎった。雨後ややあって「あの池はどうなったのかな」と妻に水を向けられて、さっそく周辺の散策をかねて出かけた。期待は裏切られた。池の亀裂は少し消えていたが、ごく一部の水かさは前回より少し増した程度。それでも、アメンボをはじめ、小さな生き物たちが元気を取り戻していた。折から小鳥たちが繰り返すタッチ・アンド・ゴーのユーモラスな風景も観察できた。池の周辺には精気さえおぼろげながら感じられたが、まだまだ生きるための絶対雨量が欲しい。そんな気重できびすを返した。

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