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社会・全般
2019年12月29日(日)8:54

「沖縄振興を聞く」/トップインタビュー②

沖縄振興開発金融公庫理事長/川上好久氏


「観光」が成長エンジン/生産性向上が必要に


川上好久氏

川上好久氏

 【那覇支社】宮古毎日新聞では、現行の沖縄振興計画である「沖縄21世紀ビジョン基本計画」が、残り約2年余りとなっていることを踏まえ、同計画による「沖縄振興」に対する成果や評価などを各界に聞く企画を連載している。
 第2回目は、沖縄振興開発金融公庫理事長の川上好久氏にインタビューを行った。(聞き手・宮国忠広)

 -現行計画の成果と評価-

 沖縄振興の歴史も、やがて半世紀を数えるところまできた。その歴史を大まかに振り返ると、第1次振計(1972~81年度)から第3次振計(1992~2001年度)までの30年間は、「(インフラなどの)社会基盤整備」が中心の時代だった。第3次振計の途中から沖縄の地域特性に合わせた産業振興が模索され、第4次振計(02~11年度)で「自立型経済の構築」が位置付けられていくことになる。
 現行の「沖縄21世紀ビジョン基本計画」(12~21年度)では「強い経済」と「優しい社会」を二大柱に据えた。経済の自立化志向をさらに強化し、リーディング産業の創出を目指す一方、離島振興や人材育成、子育て、医療、伝統文化などの発展を改めて重点化した。
 政策手法としては、一括交付金や各種税制の拡充、基地跡地利用推進法の抜本改正が準備された。
 現時点で、いくつかの課題はあるものの、復帰後最長の景気拡大が続き、これまでにない新たな局面を見せ始めたという点で現行計画を総体的に評価することができる。
 とりわけ、県経済をけん引する観光リゾート産業が「成長のエンジン」となったことや、最大の懸案課題だった高失業率が改善したこと、「離島、島しょ環境における新たな地域産業モデルの提起」などは成果を上げたと思う。

 -県民所得の向上策-

 失業率が改善しても、1人当たり県民所得は全国最下位だ。その要因としては、「製造業と他産業との生産格差」や、同一産業の全国比較でも労働生産性が極めて低いことが指摘されている。また、せっかく向上した観光収入も域外への漏出が大きい。
 しかし、そうだからと言って、(沖縄が)比較優位性のない輸出製造業などに大きくかじを切ることには限界がある。地道に県内企業の生産向上に取り組むことが肝要だろう。
 沖縄の産業構造で特徴的なのは、多種多様な業種があり、中小や小規模の企業がほとんどを占めていることがある。そのため、個々の企業での「合理化」「高効率化」へのアプローチが弱く、「1人当たり労働生産性」を高め切れていない状況にある。
 だが、現行計画で観光消費額は間違いなく倍増したほか、関連産業への波及効果も上げていることは確かだ。今後は、県域外からの移輸入をできるだけ減らし、県内生産と消費に向かわせる必要もある。
 観光入域客数が1000万人となる大規模な観光市場は、既に整えられた。ITの活用で、不利性を解消できることも経験済みだ。多くの事業主体が、その果実をどのように受け止めるのかが、むしろ、次期沖縄振興の重要なテーマになるだろう。

アジアの中核的観光地へ/「オーバーツーリズム」への対応を

-沖縄・宮古観光の今後の展開策-

 県は、現行計画の約7年間で、約450万人の観光入域客の増加をみた。なかでも、海外客は30万人から300万人へ約270万人も増加した。まず、これが一時的なものなのか、今後も拡大を続けるかを見極めなければならない。
 増加要因は、大きく三つ挙げられる。一つ目は、1990年代から顕著な「アジア経済圏」の台頭がある。巨大なアジア圏と日本経済圏の真ん中に位置するという「地理的優位性」を獲得することができた。
 二つ目は「国の経済政策」だ。地方創生と並行して観光戦略を重視したことが、沖縄振興にうまくフィッティングしたことは確かだ。三つ目に、これまでの沖縄振興計画による各種インフラ整備で観光客の急増を受け止める基盤があったことが幸いした。
 現行計画でも、一括交付金や予算の増額、各種税制などはリーディング産業に重点的な政策資源を投下することを可能にした。このように考えれば、「沖縄観光」は一過性のものではなく、20億人を有するアジアの中核的観光地として、今後も定着するものと考えてよいだろう。
 今後の沖縄観光は、エイサー、琉舞、三線など沖縄文化や芸能、自然体験などの「コト消費」のニーズが高まる可能性が極めて高い。また、宮古などで社会問題となっている「オーバーツーリズム」などへの対応策は官民一体となった取り組みが必要で、沖縄公庫では取り組み策への情報提供なども行っている。

-子どもの貧困、教育レベルのアップについて-

 子どもの貧困は、極めて深刻な問題として受け止めている。要因は「一人親世帯」「親の失業」「病気や障がい」などさまざまだ。優しい社会を目指す現行計画の実現に向け公庫でも、出融資制度を活用した「一人親世帯を雇用する企業への融資優遇制度」などを設けている。
 教育では、子どもたちの学力水準は伸びつつあるが、とりわけ離島地域では教育資金の捻出に苦慮している家庭が多く、公平な「教育機会の環境整備」のための融資を拡充することにも努めている。

 -宮古への期待と思い-

 宮古地域の方々の努力が、一気に開花したような感触を受ける。美しい自然環境だけでなく、多様な伝統文化、人情味のある地域性は、宮古観光振興の素地として生かされると思う。
 オーバーツーリズムの懸念を生じさせてはいるが、これらの課題に適切に対処しつつ、地域住民が「豊かさ」と「安心感」を得られる一大観光地としての形成は必ずできる。今後は、わが国における「新たな離島、島しょ観光におけるモデル」を提示してほしいと願っている。

 川上 好久(かわかみ・よしひさ)1954年2月生まれ。65歳。名護市出身。77年3月大阪大学経済学部卒、同年6月沖縄県入庁、2009年4月県企画部長、12年4月県総務部長、13年4月副知事に就任。14年12月同職辞任。15年4月沖縄振興開発金融公庫理事、16年7月同公庫理事長に就任し、現在に至る。


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