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私見公論
2012年5月11日(金)22:43

今を生きるわれわれが次の世代に引き継ぐもの(地下水)/前里 和洋

私見公論29


 宮古島は、飲料水源の全てを地下水に依存する世界的にあまり類をみない島である。このことから、地下水汚染が市民の生活や生命に直ちに影響を及ぼすことが容易に推測できる。宮古島の平坦な地形は農耕地に適しており、約1万2000㌶の農地が基幹産業である農業の基盤をなしている。そして、ここ数年来の農政による農地開発が促進された結果、土地利用状況は島面積の約57%が農耕地として活用され、特に水道水源流域における耕地率は高い。そのため、化学肥料由来の硝酸態窒素が宮古島の命の源である地下水を直接かつ面的に汚染している。その上、畑に施用された余分な硝酸態窒素は、作物に吸収利用もされず地下水へ浸透し無駄である。


 沖縄県は、本土復帰してから今年で40年目を迎えるが、宮古島においても基幹産業である農業の近代化を推進し、その象徴である化学肥料は沖縄が本土復帰(1972年)後の1980年代以降、急速に普及し作業の省力化や作物の生産性の向上に多大な貢献をしてきた。

 しかし、その代償として、化学肥料由来の硝酸態窒素が、市民生活に必要不可欠な地下水に負荷を与えている。これからは、地下水に配慮した農業を活性化し地下水保全と共生していく必要がある。宮古島に住むわれわれは、地下水の真上で生活を日々送っているものの、日常生活や産業活動などわれわれの営みから生じる排水が、普段意識することなく大切な地下水に悪影響を及ぼしている。

 ところで宮古島では、毎日のように大型の船や飛行機で島外から大量の物資が移入され消費されている。その後、地域循環されず窒素源を含有した有機物が陸上に溜まり地下水に窒素負荷を与える悪循環を生んでいる。

 宮古島の地下水中の硝酸態窒素濃度は、昭和41年(1966年)に1・92mg/Lであった。平成元年(1989年)には地下水中に含有される硝酸態窒素濃度は8・9mg/Lにまで上昇し、わが国の水道法に基づく水質基準の10mg/Lにまで迫る勢いであった。仮に飲料水源の硝酸態窒素濃度が、国の水質基準を超えた場合、飲み水として適合せず上水を市民に供給するための施設が必要であり、そのコストは全て市民が負担することになる。さらに地下水保全をせず、経済活動を優先した場合、悲惨な結果として市民の健康被害が想定される。そのため、世界保健機関(WHO)は飲料水中に含有される硝酸態窒素濃度の水質基準ガイドラインを定め、日本、米国およびEUなど世界各国では国民の安全な飲み水を得る権利を保障するため水道法を制定している。

 宮古島市の水道水は、約20年余の年月を掛けて、市民と行政とが地下水保全に懸命に取り組んだ結果、地下水中に含有される硝酸態窒素濃度は約3mg/Lほど下がり、飲料水源として地下水の源水を利用できる素晴らしい成果をもたらした。

 今世紀は「水の世紀」といわれ、水は世界共通の最も大切な資源として今を生きるわれわれの水保全への意識が問われている。特に、地下水の保全は水面が目に見えないだけに極めて困難である。地下水汚染の深刻さは、河川の場合一度汚染されてもその再生は数カ月で可能であるが、地下水が高濃度に汚染された場合、その再生は数百年から数千年かかると言われているところにある。

 宮古島市総合計画審議会(砂川正吉会長)は、市長に第1次宮古島市総合計画後期基本計画(案)を答申した。その答申案第1章第1節は、「かけがえのない地下水の保全」について取りまとめられ、地下水に含有される硝酸態窒素濃度を現在の5・8mg/Lから5年後の平成年度には5・5mg/Lを目指す内容であり、市民と行政との協働体制を構築し地下水保全を実現し持続しなければならない。

 宮古島は古来より水資源に乏しい島として位置づけられてきた。われわれの先祖は、苦労して湧水地より水を得、生活ができるありがたさに感謝し、地下水を守り豊かな宮古島をわれわれに引き継いでくれた。宮古島が持続的に発展するためにも、今を生きるわれわれは、命の源である地下水を保全し、次の世代に引き継ぐことが使命である。

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