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私見公論
2012年6月15日(金)23:25

今を生きるわれわれが次の世代に引き継ぐもの(自然)/前里 和洋

私見公論 34


 宮古島の地質を覆っている琉球石灰岩は透水性が高いが、島尻層群に属する泥岩は透水性の低い基盤岩となっている。そのため、宮古島は雨水の約40%が地下流出し地下水を形成しやすい。地表流出はわずか約10%であり、本州の河川地域の地表流出約55%、地下流出約4・5%と比べ、独特の水循環である。


 宮古島に住むわれわれはスポンジの真上で生活しているようなもので、梅雨や台風の大雨の半分は即座に地中に吸収され総量約1・4億㌧の地下水となる。残りの雨水は太陽の熱で蒸発散し、洪水などの自然災害から免れる確率が高くなり、市民の生命や財産が守られている。毎年、台風のたびに本州地域では、地表水が氾濫し家屋が流されたり、尊い人命が失われたりするニュースを聞くと悲しい現状に言葉がない。

 宮古島の地質的様相は、約10万年前に形成されたサンゴ礁が、地殻変動により数万年前までに隆起した後、断層活動を経て形成された比較的若い軟質の地質である。沖縄県は、本土復帰してから今年で40年目を迎えるが、その間宮古島においても社会基盤整備が急速に推進された。本来豊かさが目的の経済振興という公共工事の影響で便利にもなったが、宮古島の多くの自然が失われ、事業の中には価値があるのか疑問を持つものもある。国の財政状況やインフラ整備が整った今日では、限られた予算の中で環境に配慮し災害に強い島づくりを目指した公共事業を行う必要がある。

 世界自然保護基金(WWF)は、サンゴ礁がもたらす多面的機能(公益的機能)の経済波及効果は約3兆6000億円と報告している。その内、日本が受ける経済的価値は約2000億円である。わが国のサンゴ礁面積の90%が分布する南西諸島にとっては、注目すべき数値である。

 しかし、沿岸開発や環境汚染で南西諸島の「宝」であるサンゴが死滅すると経済的損失は計り知れない。宮古島周辺海域の観光資源である美しいサンゴ礁も、その例外ではない。さらにサンゴには地球温暖化の原因物質CO2を固定する公益的機能もある。その公益的機能とは、実際の価格には上乗せされておらず、無料で広く人々に提供される価値である。

 自然など公益的機能は今を生きるわれわれが大切に守らなければ、その価値は維持できない。しかし、残念なことに宮古島の自然に不法投棄されたゴミは、平成22年度の推定値で沖縄県の9割を占める約7800㌧の膨大な量であり、行政は多額の税金を投入して後片付けをしている。不法投棄をする人がいなくなれば宮古島の美しい自然が守られ、その自然を満喫しに観光客が島を訪れ「環境客」となる。平成22年度の宮古圏域の観光客総消費額は約210億で、将来の成長産業となることが期待される。また、不法投棄がなくなれば、無駄に投入されている、税金も人材育成や自然保護活動に活用できて生きた税金となる。今を生きるわれわれのモラルが問われている。

 世界70億人以上の人々が日本人のような大量消費型の暮らしをすると、地球が2・3個必要といわれる。宮古島に住むわれわれの生活様式も大量消費の生活に慣れ、大量のゴミを発生させる現状に島の自浄(再生)能力が少しずつ低下している気がする。

 森林を破壊すると森林の「水源かん養機能」など公益的機能が低下し、市民の暮らしを維持するために莫大な経済支出が必要になる。公益的機能を評価することは、今までかみ合いにくかった「自然保護」と「開発」の問題を同時に論じる指標にもなる。宮古島は、天然資源に恵まれない島しょである。残されたわずかな自然の保護と開発の判断は、50年後100年後の次の世代に委ねることも必要と思う。

 宮古島は、八重干瀬など美しいサンゴ礁に囲まれた島である。一度破壊した自然は二度と元へは戻らない。今後、公益的機能を十分評価し経済振興に活かすことは、残り少ない宮古島の自然を守り次の世代に引き継ぐことにつながる、大切な使命だと考えている。

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